あれよあれよと米国のアカデミー賞の外国語映画賞まで取ってしまった。
アカデミー賞も受賞レースにもさっぱり興味がないけれど、例年外国語映画賞には注目しているので「どんなもんなんかな?」とおっとり刀でスクリーンに駆けつけました。いやはや、午前中だというのに映画館はほぼ満席。アカデミー賞の集客力はものごっついものなんやなぁ!
お話しの詳細はともかく、印象に残ったことをちょこっと綴ろうと思います。
もっくんも良かったけど、得をしたのは広末涼子かな。ボクは“もう終わった人”と思っていた。今回も特に演技が素晴らしいわけじゃないけど、印象に残る役どころを得て、それをそつなくこなしていました。加えて笹野高志も相変わらずいい味を出していて、登場シーンはは多くないのに深く記憶に残ります。
加えて、酒田市を中心とした山形県でのロケーションがいい。もっくんとヒロスエが住むことになる古い木造の喫茶店、壁には大量のLPレコードが並び、裏には用水路が流れているなんて絵になるなぁ。銭湯の「鶴乃湯」もいいね(もちろん吉行和子も出色の出来です)。北のほうというか、日本海側なら、ついこないだまでこんな街並みがどこにでもあると思っていたけれど、実はもうそんなことはないんだな、きっと。酒田も鶴岡ももう少し近くなら訪ねて行ってもいいかなと思うけど、やっぱりちびっと遠いな。
クライマックスは、主人公が仕事に慣れて、まるで流れるかのように納棺の仕事をこなしていくところ。
いろんな人生の最後のピリオドに立ち会うこの仕事の真髄に触れることが出来る。そして、好むと好まざるとにかかわらず、人生にはさまざまなドラマがあることを教えてくれる。そのエピソードの片鱗からボクは送られる人が過ごしてきた人生について思いをはせる。
もし、ボクが20代であれば、何も考えず、もっくんの人生の(職業の?)選択にのみ興味を覚え、そして彼の必要に迫られてだけど、その大胆な選択に驚くだけだったのかもしれない。ボクが60代以上だったら、もっくんは狂言回しにしか過ぎず、山崎勉や送られる側にだけ共感し、そしてある意味(死ぬことを)恐れてしまうのかもしれない。観る人によって思うことが大きく異なる可能性が高いよね、このお話しは。
もっくんとヒロスエとの関係、もっくんと父親との関係、もっくんとチェロとの関係。彼を取り巻くさまざまな人間関係の描き方がやや甘くて中途半端に見えるところがあるけれど、それはあまり気にならない。むしろ、そのお陰で旧友の実家である「鶴乃湯」のエピソードが生きてき来る(というのは褒めすぎかな?)。
ビデオやDVDが出ているのはもちろん、もうすでにTVのオンエアもあったし、まさに紹介するのが遅すぎたけれど、歴代の外国語映画賞に劣らない作品だと思いました。ちょっとメソメソしちゃったしね。
このお話しには原作(「納棺夫日記」 青木新門 文春文庫 ISBN:9784167323028)があることを当然ながら知っていた。でも、ボクにしては珍しく、原作を読もうかという気にならなかった。こういう優れたお話しを前にして、改めてイメージを構築しなければならない原作を読むという行為をしたくなかったからだ。
おしまい
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