お父さんのバックドロップ

死ぬか生きるか、生きるか死ぬか


  

2004年の劇場で拝見する最後の映画となりました。
この映画の予告編はずいぶん前から拝見していたのに、大阪で公開が始まっていることすら知らなかった。
梅田のシネ・リーブルでレイトのみ。このレイトというのがなかなか曲者で「明日、明日」と思っているうちに、下手をすると見逃してしまうことになりかねない。
予告編を観たのは、たしかまだ暑かった頃。その時はまだ映画の原作本とは周知されておらず、中島らもの原作を探して、書店さんを数軒歩き、ようやく堂島のジュンク堂で発見。今ではどこでも平積になっているようですけどね。原作はすぐに読み終えることが出来る。原作を読むだけでも泣けるのに、映画を観たらどうなるのか...。

レイトにもかかわらず、50名ほど入っているから立派。師走も押し詰まったこの時期の夜遅くに、これだけのお客さんを集められるのは凄いですね。
目を引くのが、南方英二(ちゃんばらトリオのリーダー、ハリセンのおっちゃんね)がおじいちゃん役で出ていることでしょうか? 釣瓶もちょっぴり出てる。それに中島らも本人も(そうか、この映画を撮ってから亡くなったのか)。大阪が舞台だけど、この渋目の選択が凄い(下手したらこのおじいちゃんが、ちゃんばらトリオのリーダーやと気付かない人の方が多いかも...)。

お話しのベースは原作の流れのままだけど、細部はいろいろいじってある。でも、その脚色そのものはやらしくなく、違和感を覚えることはない。
憎たらしいほどの東京言葉を使うぼんも、こてこて風のマネージャーも、金剛のママに、その息子、プロレスラーたち、出てくる人がみんないい味出してはる。すっと映画の中に入っていける感じがいい。大阪という味付けだけで比べれば「ジョゼ〜」なんかは違和感ばっかりだったけど、この映画はあっさりと大阪を受け入れられる(それがいいか悪いかは別にして)。

仕事とは何なのか、そんなことを考えさせられる。
そして、一人息子に「俺はプロレスラーや!」って胸を張ることが出来る牛之助が少々羨ましくもあった。
ボクがしている仕事を息子に対して胸を張って言えるのか(まぁ、別に恥ずかしい仕事をしているわけではないんやけど)? だけど、例えおやじさんの方が胸を張って言えたとしても、息子のほうがね「ボクのパパってプロレスラーなんだよ」と学校でクラスメイトに胸を張って言えるかどうかは疑問なわけだ。
自分自身もプライドを持ち、かつ家族もその仕事に誇りを持ってくれていること、それは実はなかなか難しいかもしれない。特にお父さんがサラリーマンである場合、家族にはそれがどんな仕事なのか見えにくいしね。

このお話しは決してスマートではない。それどころか、泥臭さを売りものにしているふうでさえある。
牛之助は全てが泥臭いけれど、真正面から取り組んでいく。挑んでいく。斜に構えていた息子も、とうとうお父さんを真正面から受け止める。
涙を流すのかどうかは個人による差はあるでしょう。でもね、涙は流さなくても胸が熱くなるのは間違いないでしょう。「こんなお父さんやったらな」と思うのか、それとも「よっしゃ、俺も息子にぶつかっていこう」と思うのか、その違いはあるかもしれない。でも、この映画から、勇気とハートを貰ってもらえればいいな。その方法はスマートではなくていい。泥臭くて、人間臭い方がいいよね。

普段あんまり映画を観ないお父さんに是非ご覧いただきたいです。
そしてお父さんはストーリーを追いかけるのではなく、牛之助に成りきって映画の中で苦しんで、暴れてください。そして、目頭を熱くしてほしいなぁ。

いつまで上映しているかわからないけれど、年が明けてももうしばし上映しているはずです。リーブルへ急げ!
しまったな「Masked41」も観て、見比べれば良かったかなぁ...。

おしまい。