「エルミタージュ幻想」

ここはまさしく迷宮


  

新宿から渋谷へ。
2/22に公開されたばかりの「エルミタージュ幻想」。会場はユーロスペース。ここは特徴のある作品を上映していることが多いので要チェック。配給会社の実験的上映館なのかもしれない。
ここはいつもそこそこお客さんは入っているけど、普通の木曜の13:00からの回が満席で立見も出るとは想像だにしなかった。そのほとんどがシルバー世代のお客さんなのには驚いた。
チケットカウンターから奥のスクリーンは正直言って観にくい。しかも一杯人が入っていて、そのほとんどが普段映画をあんまり観ない人たちだから皆さんおそろしく座高が高い。まいった。
ボクの席の斜め前の兄ちゃんは図体もでかいし、頭もでっかくて画面のほぼ1/4が隠れてしまう。途中でよっぽど帰ろうかと思った(しかもこの兄ちゃん2/3は居眠りしていた)。こんな環境ではゆっくり映画を楽しむことはできない!
本来、ゆったりとした気持ちで観るべきこの映画をイライラしながら観なければならないのは苦痛だった。ユーロスペースは座席数をもう少し減らしてでも座席レイアウト・環境を改善すべきだと思う(少なくともスクリーンの位置をもう少し上に上げるべきだ)。カウンターすぐ左のスクリーンはまだマシだけどね。

さて、なんともへんてこな映画。 約90分間のこの映画は、その全てが1カットで撮影されているのだ。普通、90分ほどの映画の場合そのカット数は700〜800はあるそうだ。それをすべてが流れるように90分間続いているのだ。舞台でも90分間ずっとということはあんまりない。それを映画でやってしまうとは恐ろしい。その発想も凄いことです。
主人公はアレクサンドル・ソクーロフ監督自身(声のみ)と19世紀に実在したフランスの外交官キュスティーヌ。監督自身の視線がカメラになっている。この二人がロシアにあるエルミタージュ美術館へ迷い込むところから始まる。
雪のある日、帝政ロシア時代の貴婦人と将校たちが美術館の入り口に着き、中へ入ろうとしている。そのシーンで「スタート」の掛け声とともに撮影が開始されると、後はこの美術館を舞台に捲りめく時代絵巻が一斉に繰り広げられるのだ。そう、まるで夢を見ているように、過去と現在を行ったり来たりしながら進行していく。
近現代のロシア史と美術史に全く疎いボクでさえ、目の前に繰り広げられるこの絵巻物が只者でなことは理解できる。

美術館にある各展示室や舞踏室、大広間などありとあらゆる部屋、廊下、階段が非常に巧く使われていて主人公たちがそれらを使って動き回るごとに、時間やテーマが移り、それが自然に行われる。その巧みさは一見の価値がある(と思う)。
二人の主人公は観劇をし拍手をするエカテリーナ女帝に会い、ペルシャからの使者を謁見するニコライ1世に姿を見る。そして大舞踏会ではどこかの令嬢と踊るのだ。
展示室を壁狭しと飾る絵画の数々に論評を加え、彫刻に手を触れる。どの絵がどれだけの価値を持つものかは知らないけど、なんだか凄そう。

そして、舞踏会の最後にキュスティーヌは、引き留める私の手を振り払って、美術館の奥深く去ってしまうのだ。

これって、壮大な実験映画だと思う。その手法がどれも斬新で、新鮮。どんな素材でもこの手の作品に仕上げることが可能かと言うとそうではない。ロシアの歴史とこの器(エルミタージュ美術館)の存在があってこそ可能な手法。
ただ、ちょっと高尚すぎて面白さはそう感じられなかった。もちろん作り手もこの映画を「面白いか、面白くないか」という観点で評価してもらいたいとは考えてはいないと思うけど。
もう少ししっかり勉強して、そして良い環境で、うっとりとしながら夢を見せてもらいたい。そんな映画だと思います。

90分を一気に撮影出来るだけの長さのフィルムは無いので、ハイビジョンのビデオカメラで撮影したそうです。なるほどなぁ。監督はもちろん、役者さんもスタッフもほんまに大変やったでしょうね。ご苦労様でした。

興味のある方にはたまらない映画だと思います。まずまずのおすすめ。
関西では時期は不明ですが梅田ガーデンシネマで公開の予定があるようです。

おしまい。