「上海〜成都〜重慶〜杭州(1998年5月)」

四川省をウロウロ旅する


その3・重慶は小香港のようだった

  

四川省の省都は成都だけれど、四川省には成都より人口が多い都市がある。それが重慶(じゅうけい・チョンチン)。重慶は1997年に北京・上海・天津に次いで4番目の直轄都市に格上げされている。また、重慶・武漢・南京は中国の「三かまど」と呼ばれて、夏の猛暑で有名。
そして、霧の都。川沿いにある街で、霧で覆われることが多いのと、実は公害の街でもあり、スモッグがひどくて空気が汚染されている都市としても有名なのです。
成都から重慶までの移動は、飛行機なら30分足らず(但し、臨時便のみ)、鉄道なら約12時間、高速バスなら約4時間。今回のボクはバスで移動することにした。
ホテルでバス乗り場を聞き、タクシーで向かう。想像以上に立派なバスターミナルだ(間違いなく、ボクの知る限り最も立派なターミナルです)。時刻表を確かめると、約10分おきに「空冷・テレビ・トイレ付きの韓国製高速バス」が重慶駅に向けて出発している。でも、10分おきに出発というのはウソで、ほんとは間引いて運行されていて、バスの座席がほぼ埋まらないと出発しないのだ。だから、ほぼ満席状態でバスは高速道路を東へ向かい、一路重慶へ。
日本の高速バスのように快適。韓国製のバスは座席も大きく、乗り心地は素晴らしい。高速道路の路面もOKです。
高速に入ってすぐにあたりは農村風景が広がる。中国と言っても都市部しか知らないボクにとっては結構新鮮な風景だ。時折、農家が見えたり、農作業に取り組んでいる人が見えたりする。
ウソだと思うかも知れないけど、この道すがらボクは鍬や鍬などの人の手で動かす道具と、水牛やロバなどの動物が引く鍬以外の農機具を一度たりとも見かけなかった。道路沿いにある畑やたんぼはどれも広大な面積を持つようなものではなかったけれど、たった一台の耕耘機も見なかった。ましてやトラクターなども見かけない。これはちょっとした驚きだった。水牛はたくさんいたけどね。
重慶にはちゃんと約4時間で到着。今夜の宿は「重慶賓館」。着いてみるとえらいクラシカルなホテルで、良く言えば「老舗の風格」があり、普通に言うとちょっと「きてる」。でも通された部屋はまずまずの部屋でした。

 

重慶は揚子江とその支流の川が合流する地点に出来た都市だ。川と川に挟まれた、まるで半島のように突き出た場所が街の中心地であり、旧市街ということになる。旧市街は狭く、坂が多い。急速な発展に伴い、超高層ビルと古い街並みが同居している。まるで香港を歩いているような錯覚におちいる。斜面にビルが建っていて、西側の入口から入ったら、そのフロアは東側から見ればビルの3階だったりして、ちょっとオモシロイ。
日本では川を船で旅することはまず考えられないけれど、揚子江は今でも物流の主要幹線になっている。重慶にも大小さまざまなタイプの船がうようよ行き交っている。なかでもここ重慶から武漢までは「三峡下り」と言って揚子江を観光しながら船で3〜4泊して下っていくのはポピュラーなコースです。
半島の最先端がその発着場所になっていて、今から船に乗り込む人たちと、客引きとで殺人的な混雑だ。客引き達はボクが外国人だとは分かっているが、手ぶらなので誰も声は掛けてこない(良かった)。
展望台から揚子江を行き交う船を見ているだけでも楽しい。水面には延々と浮き桟橋が並べられており、その上を人が行き交っている。

地面と揚子江の水面にはほぼ100メートルほどの高度差がある。渓谷の底にものすごい幅の川が流れているようなものなのです。もちろん船は水面にあるから、この間を行き来するのはロープウェイかケーブルカー(もしくは、気が遠くなりそうな石の階段を歩くか)。展望台からはこの様子も見ることが出来、これもなかなか楽しい。
問題は手荷物が多い観光客だ。高めのツアーだと、スーツケースなどは旅行業者が手配して船に積み込んでくれるが、そうじゃない場合は自力で荷物を下まで降ろす(または、上まで上げる)。そんな時に活躍してくれるのが、竹で出来た天秤棒を持って待機している「担ぎ屋さん」たちだ。重そうな荷物でも、 軽々とそして器用にひょいっとかついで階段を駆け上がる。そして、ケーブルカーで上がって来る持ち主に荷物を手渡して、幾らかの手間賃を受け取り、今度は下に持って降りる荷物の持ち主を捜している。それの繰り返しだ。
ボクはヒマなので、ぼ〜っと見ていると、同じ担ぎ屋が何回か荷物を持って往復していた。竹竿一本でほとんど元手を掛けずに現金収入が得られる商売とあって、近隣の農民が重慶に出稼ぎに出てくると一番最初に始める仕事らしい。そのせいか、成都では見かけることが少なかった肉体労働者風の男たちを重慶では良く見かける。この担ぎ屋さん、重慶だけでも数万人いるそうです。

 

重慶には少ししか滞在できなかったので、茶館でお茶を飲むことも、動物園でパンダを見ることもできなかったけど、夜市は冷やかしに行った(成都に比べると恐ろしく地味だった)し、屋台で四川鍋(のようなもの)もつついた。 「霧都」重慶の印象は「垢抜けない香港」って感じかナ。

そうそう、北京でも、上海でも、もちろん杭州や成都でも見かけなかったのに重慶にあったものがある。最初見かけたときのは目を疑った。でも、ほんとにあったんだ。それは「コーヒー・ショップ」だ。
中国人は、少なくてもボクが知っている中国人はコーヒーがあまり好きではない。飲むのはお茶かミネラルウォーター。中国でコーヒーが飲めるのは、免税店(またの名を「友誼商店」ともいう)の喫茶コーナーか、高級ホテルに限られていると思っていた。免税店ではネスカフェ(中国でのコーヒーの代名詞にもなっている)のインスタントが堂々と出てくるし、ホテルで飲むコーヒーも「何時間煮詰めたんや」っていうほどのシロモノだった。
そんな中国で、しかも重慶で、ホテルの斜め向かいのビルの1階にあるのは、誰が見ても「日式喫茶店」そのもの。外観も、表に出ている看板も、メニューが書いてある黒板もまさしく「喫茶店」であり「コーヒーショップ」なのだ。お店のカウンターには電動のコーヒーミルが鎮座し、サイフォンが並び、壁際には何種類かのローストしたコーヒー豆が巨大なガラス瓶に入れられている。その姿はそのまま梅田にあるコーヒー専門店のようだ。
ボクは何度もその店の前を往復して中の様子を伺った。お客さんはいない。カウンターにも人の姿はない。でも扉には「営業中」を示す札がかかっている。でも、先客のいない店に一人で入る勇気はなかった。
夕食を済ませたボクは、ホテルの戻る途中にこの店のことを思い出して、前を通ってみた。店には明かりがともり、何組みかの若者がテーブルに着いていた。なんか、ホッとした。その時ボクはかなり酔っぱらっていたので、コーヒーを飲める状態ではなかったのが悔やまれる。一杯40〜50元(日本での感覚で言えば2,000〜3,000円ほどかな)の重慶ブレンドの味を確かめてみたかったのになぁ。
(※今では北京や上海にはスターバックスなどが進出して、それなりに繁盛しているそうです、でもそれを伝える新聞記事にも「中国人はコーヒーがあまり好きではない」とかいてありました・2001/8現在)

翌日、重慶の旧市街から空港に向かうタクシーの中で目にした風景も香港に似ていた。旧市街があまりにも狭いために、川を渡った「新界」には見渡す限り高層アパートが林立している。こんなに広い中国大陸のどまんなかなのに!ウソみたいだけどホントです。
日本でも一歩空港の中に入ると何でも物価が上がるけど、それは重慶でも同じこと。街では10〜15元でも「少し高いなぁ」と思うような定食が25元もする。しまったなぁ、昼食を済ませて出てきたらよかった。ビールも高いよぉ。これってちょっとおかしいよね。
中国西北航空が重慶と名古屋を結ぶ航路を就航させたためか、それとも三峡下りをする日本人が多く利用するからなのか分からないけれど、空港のアナウンスは中国語(普通話)、英語、日本語の順で流れる。ざっと見渡した限り日本人はボクしかいないみたいだけどね。それもだいぶクセのあるイントネーションで「中国西北航空○○○○便、北京行きご搭乗のお客様は、○○ゲートへお越し下さい」とテープをつなぎ合わせた合成アナウンス。しっかり聞いていないと日本語であることにさえ気づかないほどだ。
日本で航空券を予約する時には地方都市の重慶と杭州を結ぶ航路があることが驚きだったけど、空港の杭州行きのチェックイン・カウンターには長蛇の列が出来ている。飛行機に乗り込むと、機内は満席だ。もちろんバスとは違い、飛行機はガラガラでも時間通りに出発するんだけどね。

つづく