04/26・ソラクに果つ

その4〜ピークからオセッ


地平線やその向こうにある水平線はかすんでよく見えないが、360度絶好の見晴らし。
ここは38度線より北側にある。今見えている北の方角にある山々は北の領土なんだろう。こうやって見ていると、そこには国境(休線ライン?)など存在せず、連なっている一つの山塊にしか見えない。
いやいや、ここでこの種の話しは止めよう。

どっかりと腰を降ろす。荷物も降ろす。
正直言って、ひたすら疲れた。出来ることならもう一度鞍部にある山小屋に引き返してそのまま眠りたいほどだ。山頂に到達した達成感や解放感よりも、疲労感の方が何倍も大きい。
座りなおして地図を広げる。今歩いてきた道を引き返すなんてとてもムリ。考えただけでもぞっとする。五色(オセッ)温泉まで、地図に記入されているコースタイムで3時間(登りは4時間)。もう一気に降下するだけなので、ほぼ時間どおり歩けるはずだ。しかし、このくたびれ果てた足を引きずって、ほんまにまだ3時間も歩けるのだろうか?

山頂で休んでいても時間が過ぎていくだけだ。束草のこの日の日没時間は午後7時過ぎ。5時間以上あるからどんなにゆっくり歩いても暗くなるまでにはオセッにたどり着けるだろう。しかも下山路は基本的に南向きの斜面だからそんなに雪も残っていないはず。この雪はやっかいで、思いのほか体力と時間を消耗してしまう。

放心状態になった気持ちと緩めた靴紐を締めなおす。雪と埃で薄汚れたスパッツを付ける。
さぁ、歩こう!

いきなりの急降下。木陰にはまだ雪が残っているが、ほんの少しだけだ。コースは木で組んだ階段状になっていて歩きやすい。それにしても角度が急だ。今は降りているからいいけど、このコースを上がってくるとなると相当な覚悟が要りそうだ。
コンディションが良かったのはほんの数100メートルだけで、それ以降は剥き出しの風化した花崗岩の岩盤を滑るように降りて行くしかない。それでも木で組んだ階段、そして例の鉄パイプなどが思い出したように交互に現れる。前半と違い、谷沿いのコースではないので鉄パイプを頼って無理矢理という感じではない。それでも降下する角度は一気。
途中振り返っても、もう大青峰のピークはすでに望めない。

脚を引きずるように歩いていく。日本のように九十九折りで徐々に進んでいくワケではなく、時折曲がることはあっても基本は一直線。怖いほどどんどん降りていく。上で転倒に注意しろと言われた意味がわかる。
正面から陽射しを受けて暑いほど。登ってきたコースに較べてなんと雪が少ないことか。それはそれで助かるが、あのザクザク感が無いのはちょっぴり淋しい気もする。

大青峰ピークからオセッのゲートまで、便宜上に4パートに分割できる。途中に三カ所休憩所が設けられている。上から「第二休憩所(Resting Place No.2)」「雪岳滝」「第一休憩所」。
ボクは降下して行くだけだから、そうでもなかったけれど、このコースを登る場合はこの休憩所で一息入れることをオススメします。それだけこのコースは一本調子のきつい登りになります(考えただけでもぞっとする!)。

このコースの楽しみの一つはシマリスくんが目を楽しませてくれること。冬と春が同居しているこの季節なのに、冬眠から目覚めたシマリスくんたちが、元気に身軽にあちこち駆け回っている。こちらが荒い息をしながら随分近づいても急には逃げない。地面の上をちょんちょんちょんと動き回る愛くるしい姿は一瞬だけ疲れを忘れさせてくれる。
手許にはチョコレートだけしかなく、何もあげるものがないのが残念。
頂上直下からオセッのゲート付近まで、ほとんどの場所で目にすることができます。もちろん季節によって行動範囲は違うでしょうけどね。

岩の間に咲く可憐な黒花

第二休憩所を過ぎると耳に水の音が入ってくる。そうこうする間に沢に合流する。美しく冷たい水でごしごしと顔と手を洗う。気持ちいい!
しばらく沢に添うと橋。ここから谷底とコースには高度差が付くのだけれど、そこから数100メートルの規模で巨大な舐め滝が始まる。これが「雪岳滝」。流れてきた沢の水が大きい岩盤の上を走るように流れ落ちていく様は見事の一言!
疲れ果てていなければじっくり見たいところだけど、正直余裕がなかった。ちらっと目をやっただけ。もったいなかったかなぁ。写真を撮ろうとも思ったが、このスケールはとてもじゃないがフレームに収まりきらない。

このままこの谷に沿って行くのかと思うと途中でお別れ。
このあたりでボクのエンジンも完全に不完全燃焼を起こしている。あらゆる筋肉が悲鳴を揚げ、関節はオイル切れを訴える。そう重くもないザックを担いでいる肩まで痛いよ。休憩所でも何でもない岩棚にがっくり腰を降ろし、ザックを降ろす。下山路のもう半分以上は来ているはずだから、もう一頑張りなんだけどなぁ。
でも一度降ろしてしまった腰は容易には上がろうとしない。ザックを開けて水を補給して、チョコを口に運ぶ。苦しくなって靴紐もほどいてしまう。そう言えばこんなに足の裏が痛くなったのも初めての経験。完全にバテちゃったなぁ。
もう考えているのは一刻も早く降りたいと言うことだけ。そう言えば随分太陽の位置が低くなってしまった。
それでも、誰かが助けてくれるワケでもなく、タクシーが通りかかるはずもない。もう少し自分の足で歩くしかない。
あぁ、もうしばらくは山歩きしたくないなぁ。

相変わらずの急降下が続く。五色温泉の建物の屋根が見分けられるようになってきた。忍の一字で歩く。広葉樹が終わり、すっかり松の林に入る。
下界からのクルマのエンジン音が耳に届くようになってきた。また沢に合流。さっきまでの谷からは考えられないような水の色。
やっと降りてきたんだなぁ。いつもなら耳障りなクルマの騒音にも安堵を感じるとは情けないような気もするけど、これが偽らざる気持ち。
しかし、ここからがまだ長い。気持ちが切れているだけに、尾根の尻尾をじりじりと下がって行くのはツライ。最後に急降下。そして鉄パイプの長い廊下。やがて沢の岸辺に降りると...。

唐突にゲートが現れる。
長い山が終わった。

ゲートの建物には守衛のようなおじいさんが待っていている。
読んでいた新聞から顔を上げ、ウンウン頷く。連絡が行っていたようで、事情はわかっているみたいで、顔はニコニコしている(良かった!)。そしてバス停はあっちだと教えてくれる。

目の前には舗装道路。春川に向かう幹線道路。この道を横切って五色温泉へ向かう。
五色グリーンヤードホテルの入浴料はW6,000。気持ちよく汗を流しました。湯船に浸かりながらしばし放心状態。
湯上がりに飲むビールは最高に美味しかった!
帰りはフロントでタクシーを頼むと、もう少ししたらホテルの送迎バスが束草まで出るからそれに乗れば良いと教えてくれた。

ようやくここまで降りてきた オセッ・ゲート



いやぁ、ちょっと無謀で反省点が多い雪岳山遠征でした。
こんなベストシーズンに登山規制をするのはどうかとも思うけど、ルールを破るボク自身が一方的に悪かった。関係各位にはほんとうにご迷惑をお掛けしました。
次回はじっくり事前情報を集めてチャレンジしたいと思います。
また、こんな高度差があるロングコースを踏破するにはちょっと修行が足りませんでした。もっとトレーニングを積んで無雪期に(出来れば紅葉の季節に)歩いてみたいですね。

万人にお勧めできるコースではありません。
雪岳山は懐が深くて、ほんとうはピークハントだけを目的に歩くのはもったいないと思います。ゆっくりのんびり山中で1泊か2泊する計画と装備がいいかもしれませんね。
コース上にはしっかりとした標識やポストがあり歩くさいの格好の目安になります。また、コースそのものも厳しいことを除けばとてもしっかりしており、無雪期ならコースを失うことはまず考えられません。ただし、コースそのものが「非情」に長いので必ず地図は携行して下さい。
また、ボクと同じ過ちを繰り返さないために、事前に入山規制情報を入手されることをおすすめします。情報入手方法は ココ(但し、ハングルと英語のみ)。また、言葉に自信の無い場合は韓国観光公社で「雪岳山の入山規制について教えて!」と尋ねても調べてくれると思います。ちなみにこの韓国観光公社は日本国内より、ソウルにある本部の方が断然親切です(ボクはいつもお世話になっています)。

おつかれさまでした。

※参考地図:
(地図名)案内地図 魅力の街 束草 雪岳
(発 行)束草市
(備 考)この地図の裏面「雪嶽観光案内図」を利用しました また別刷りで英語版・ハングル版もあるようです


雪岳洞A地区ホテル5:10〜雪岳洞ゲート5:15〜雪源橋5:40〜飛仙台6:00〜鬼面岩7:00〜7:15 6kmポスト7:25〜8:10陽瀑山荘8:25〜最初の鞍部9:40〜9:45喜雲閣退避所10:05〜小青峰12:10〜12:40大青退避所13:20〜13:30大青峰13:50〜第二休憩所14:25〜雪岳滝15:10〜第一休憩所16:05〜オセッゲート17:10

※コースタイムはあくまでも目安としてください
体力・天候・コンディション・雪の有無などで時間は大きく変わります

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