05/19・蓼科山

この世のものとは思えない幸せ!


蓼科にある職場の保養所へ行って来た。
金曜に東京であった会議を終え、その足で蓼科へ向かう。
東京は生憎のしのつく細かい雨が路面を濡らしている。中央道もずっと小雨模様だ。
この雨では、明朝の山歩きはちょっとムリかな。保養所に到着したのは11時ちょっと過ぎ。ビールを飲んで、早々に寝る。
翌朝の4:00ごろ、まだ暗いが窓の外でさえずる野鳥の声で目覚めた。あァ、幸せ。でも、残念ながら、天気はどうもすぐれないようだ。この日の山歩きは、潔く諦める(単に、まだ眠たかっただけか?)。

この日は、ぶらぶらしただけ。途中で、諏訪大社の春宮へお参りに寄る。ほんの少し賽銭をはずんで、明日の晴天をお願いしておいた。

翌朝、4:00。
カーテンを開けると、今まで蓼科で迎える一番いい朝だ。薄暗い中でも、木々のシルエットがはっきり見える。
前夜まで「行きます!」と張り切っていた小出隊員は、深酒の影響か何回か声を掛けたが、起きてこないので、今回はお休み。12月に吹雪の赤城山を一緒に歩いたナイスガイ藤田と二人で保養所を出発。

ビーナスラインを北へ進み、女神湖を経由して蓼科山七合目がスタート地点(標高は、およそ1,900m)。ガスもなし、雲も無し。路面はまだ濡れているが、明らかに晴天の予感が!
登山道入口には鳥居あり、この鳥居を挟んで向かい側に20台程度は停められる駐車場があります。
もう、すっかり明るくなった中、手早く装備を整えて、準備体操。鳥居をくぐったのは5:05。

クマ笹が繁る山道を歩き始める。だらっとした登りだ。「これなら、スニーカーでも大丈夫かなぁ」なんて話しながら、まだまだ余裕があった。
やがて、‘馬返し’という標識。ここでも「こんなとこで、馬を返して貰ったらこまるなぁ」なんて軽口を叩いていたんだけど...。
ここから、クマ笹は姿を消し、九十九折りの道が始まる。ちょっと息が切れてくる。登山道の左右両サイドには緑色のロープが張られていて、誘導してくれると言うよりも、「このロープからはみ出るな」と警告されているような気がする。慣れないので、ちょっと嫌な気がする。おそらく、松の一種なんだろうけれど見慣れない高木(こうぼく)が多い。
スズムシの音色を大きくしたような野鳥のさえずりが妙に近くに聞こえる。その他にはウグイス、これもいつも歩いている六甲で聞くよりも耳の近くで鳴いているようだ。それだけ、自然が濃いのかなぁ、それとも人に慣れているの? この山ではずっと近くでボクを励ましてくれた。
九十九折りの坂道が終わると、一転して急坂を登る。枯れ沢のようで、雨の日はつらそうだ。ボクは心の中で、ここを「賽の河原」と名付けた。上空を覆う梢はなく、女神湖まで見渡せる。ほぼ直登に近く、ちょっと応える。この辺りから、すっかり軽口も聞かれず、藤田隊員とボクの間が開いてくる。河原の端っこには雪の名残も残っている。
間もなく、賽の河原も終わり、また林の中の九十九折りの道に戻り、角度も急になる。‘天狗ノ露地’の標識。もうしんどくて、どんな場所かは見に行く余裕はない。
この辺りで標高は2,150m程度。ボクにとっては未体験ゾーンだ。息苦しいと言うよりも、なんか苦しい。今まで経験したことがないような苦しさ、だるさだ。藤田隊員との差はどんどん開いていく。彼の軽やかな足取りに比べて、我が歩みは...。途切れそうな声で藤田に声を掛け、一本立てる。動きを止めると身体は楽になる。やがて、空が近くなってきて、木々の高い梢に陽が当たっているのが目に入ってきた。将軍平まではあと一息だ。

鳥居から1時間ジャストで将軍平にある蓼科山荘に到着(標高約2,350m) 。ほんまに1時間? なんか、もう3時間は歩いたような気がする。山荘前にある床机にどっかり腰を降ろす。ボクには高度順応力がないんとちゃうかなぁ。ボクの身体には2,000mに対する見えない壁が立ちはだかっているのではないかと考えてしまう。
将軍平から見上げる蓼科山はまるでボクの登頂を拒絶するようにそびえている(ように見える)。ほんまに、あと30分でこの壁のような道を登りきれるのだろうか?
重い腰を上げて、リュックを背負い直すと、いきなりの急登だ。しかもコースのはたっぷり白いモノが残っている。どの雪がさくっとした雪で、どの雪がつるっとした雪なのか。視線が空をさまよい、しかも目の奥がチカッ、チカッと視力検査機スイッチが入ったり止まったりするような...。「もはやここまでか」と観念する。イヤイヤ、もう一頑張りだ。
もうすでに、藤田隊員の姿は視界にはなく、牛の歩みでも、カメの歩みでもいいから一歩、一歩進むしかない。残雪のせいもあって、足場が極端に悪く、片手をついて三点支持で、それこそ‘よじ登る’感覚だ(大袈裟ですが)。
将軍平を越えてからしばらくすると木立は途切れて、周囲は岩というか、大きめの岩の集合体のようなものだ。直登の道が左へ巻き始めると、ふっと角度が楽になる。見上げると、もう空しかない。

山小屋を通り過ぎると、はるか前方でナイスガイ藤田が手を振っている。
山頂には一本の木立もない。見渡す限りゴロタ石が敷き詰められている。この石に黄色いペンキでしるされている矢印に従って歩みをを進めると、藤田隊員が待つ一等三角点まではすぐだ。
「おつかれさまでした!」

藤田隊員もすがすがしい!

ここは標高2,530m。気温はほぼ0度。風はちょっと強いけど、しれてる。そして何と言っても、上空は快晴。眼下には雲海が広がっている。
一等三角点は、丸い山頂の南南東の位置にある。
山頂はだいたい直径200mほどの円形。地球上にいる気がしない。なんか別の星の上にいるような気さえする。
ここからの展望は、まさしく360度。
すぐ南には、手を伸ばせば届きそうなところに八ヶ岳の山魂。その右には雲間から南アルプスの山々が白い姿を見せている。西には北アルプス。
「感動」という陳腐な言葉ではとても言い表せない感激が全身を包む!

 

蓼科山七合目5:05〜6:05将軍平6:15〜6:45蓼科山山頂7:25〜7:50将軍平〜8:13天狗ノ露地8:20〜8:40登山口

 

南には八ヶ岳、いつか歩いてみたい
山頂直下から見る将軍平 登山口にある鳥居
帰路、女神湖湖畔から見上げる蓼科山