「春の惑い」

05/Aug./2003

  

さて、今回は梅田ガーデンシネマで観て参りました「春の惑い」。2002年中国、原題「小城之春」。この作品は1948年の同名の作品のリメイク(中国の映画でリメイク作品が撮られるは初めてらしい)。監督はティエン・チュアンチュアンという人で、チェン・カイコーやチャン・イーモウと同じ世代の監督。

お話しは1946年、中日戦争の傷跡も残る小さな街・蘇州、没落した旧家のダイ家が舞台。
病気がちの当主のリーイェンと、その妻のユイウェン。特に問題もなく平穏な毎日を送っていた二人のもとに、リーイェンの旧友チーチェンが訪ねて来る。再会を懐かしむチーチェンとリーイェン。
そこへ現われたリーイェンの妻に、チーチェンは驚かされた。彼女はかつて愛し合っていた昔の恋人、ユイウェン...。

この映画、予告編を観た時からかなり心打たれていた。
陰影がくっきりと写し出される映像。ゆるやかに流れる綺麗な音楽。春の昼下がり、夫を訪ねて来たのは昔の恋人...、という叙情的なストーリー。そしてその心情を妖艶とも思える表情で演じる主人公の女性。
この予告編だけで、身体が震えた。
それが...。どうも「なんだかなぁ...」。

登場人物は極めて少ない。
チーチェンがリーイェンの妹シュウの通う学校を訪問するシーンを除けば、登場するのは五人。言ってしまえばユイウェン、チーチェン、リーイェンの三人に絞られて描かれている。
別にこれはこれで悪くはない。
でも、裕福な旧家であるダイ家での生活は浮世離れしていて、生活感がまるでない。そんな中で、三人の会話シーンばかりが場面を変えてひたすら繰り返される。これでは全く生き生きしたところがなく、まるでリアリティさが感じられない。

役者さんは、舞台かTVドラマ出演の人がほとんどで、映画の世界では無名の人ばかり。だからといって演技が駄目なのではなく、それなりにそつなくこなしているんだけど、どうもしっくりこないのだこれが。
不道徳の領域とも思える夫婦、昔の恋人という関係だけど、ストーリーにしっかりとした筋がなく、それぞれが勝手に叙情劇の主人公を演じているような印象を受ける。またそれが美的に演技、演出されていてたしかに映像は綺麗だけど、どの登場人物に共感できない。気持ちが伝わって来ない。
普段はスクリーンに集中するもんだけど、今回ばかりはそうはいかなかった。いつものように一番前の座席に座ったのに、やけにスクリーンが遠く感じてしまった。

これまで観て来たような中国映画とまるで違う。
それは48年の「小城之春」の名作のリメイクであるが所以なのか、それともエン・チュアンチュアン監督の作風なのか? いずれにしても僕は「小城之春」を観たわけでもなし、他のティエン・チュアンチュアン監督作品を観たわけでも無いので比較もできないけどね。
観る人によって評価は大きく分かれる作品なのかもしれないけど、少なくとも僕には何だったのかまるでわからないままに終わってしまった。
音楽の方も予告編で流れていた曲、劇中ではほとんど流れていなかったような気がする(残念)。

とはいえ名作と言われる「小城之春」。そしてティエン・チュアンチュアン監督作品なので中国映画好きには観ておかなければならない作品かも。
ひょっとしたらこれが新しい中国映画のひとつの方向なのかもね。
観るかどうかは、御自分の判断で...。

次回は再びチャップリン映画祭です。