「僕のスウィング」

24/Mar./2003

  

ジプシーとは、エジプシャン(エジプトから来た人)という言葉がなまったものであり、彼らの顔立ちがエジプト人に似ていたことからによる。しかし彼ら自身は、自分達のことをロマ(あるいはロム、意味は“人間”)と呼ぶ。
その歴史は古く、彼らの故郷はインド北西部のパンジャブ地方にあった。だが7世紀から10世紀にかけて、ムスリム人(回教徒)の侵略にあい、彼らは故郷を失い、漂白の民となった。やがて千年の時を越えて、彼らはヨーロッパ中にひろまったのである。

ちょうどこの辺りは、故郷パレスチナをバビロニアに追われたユダヤ人とも似ている。しかしユダヤ人達は、ユダヤ教というひとつの宗教で結び付き、また彼らは勤勉でもあったから、行く先々で富や権力を手にしてきた。そしてやがて、故郷にイスラエルという国を建国するまでにいたっている。
だが、ロムの人々は、元来数家族単位でしか繋がりをもたず、また彼らはその地その地の他民族の文化に溶け込んでいった。
その為か、彼らはヨーロッパの国々で迫害の歴史を受けている。特に第二次大戦時には、ナチスドイツによってユダヤ人とおなじようにロム人も大量に虐殺されたという事実もある。
また現在でも、欧州ではロムを差別する街や国が残っているという...。

さて今回観ましたのは、シネ・リーブル梅田にて「僕のスウィング」2002年フランスの映画。
書出しのとおり、ロムを題材にした映画(僕自身はロムと呼称させていただきます、以下あしからず)。
特にこの映画は“マヌーシュ・スウィング”という、その地その地に融合してきたロム文化の音楽と、他の民族の音楽とが融合され生み出された、新たな音楽のジャンルのひとつが題材にされている。(有名なスペインのフラメンコも、そういったロム音楽のひとつである)マヌーシュ(フランス中部以北からベルギー、オランダなどに暮らすロムの通称、ロムの言葉では“男”を意味する)と呼ばれる地区の、フランスのストラスブールが舞台となっている。

10歳の少年マックスは夏休みの間、祖母の家があるストラスブールへと来ていた。街の酒場で、いつも演奏しているマヌーシュ・スウィングのギターに心を奪われたマックス少年は、どうしても自分のギターが欲しくなり、彼らが住むストラスブールの郊外を訪れた。そこでギターを売っていたのが、黒い大きな瞳をした、少年のような少女スウィングだった...。

お話はこの、マックスとスウィングの少年の一夏の淡い恋を中心に進んでいき、その中にロムの歴史と文化、そしてなによりマヌーシュ・スウィングの音楽がちりばめられている。
劇中でもギターを弾く、チャボロ・シュミットという人。この人は実際にも世界的に有名なマヌーシュ・スウィングのギタリストであり、映画でもその腕を披露する。あの指さばきにはオドロいた! ギター(クラシック?)でここまで音をかなでるとは、始めて聞きました。

そんな、心揺さぶる、音楽の映画。
のはずだったのですが、しかし実際のところ、僕はそれほど心を揺さぶられなかったように思えた、何故なんだろう。
何故かこの映画は、ちょっと中途半端な気がする。
たしかに音楽は素晴らしい、あのギターさばき、音楽、どれも心を躍る曲だが、少しもの足りないように思える。またロムを伝える、歴史と文化でみても、あまり語られない(そればっかりでも、違う映画で暗くなってしまいますが)。
ロムやその音楽を全然知らなくてこの映画を観た人は、何か感じたのだろうか。やはりただの少年と少女の淡いノロケ話し+音楽にみえてしまったのだろうか。もう少し音楽にはまってくれれば良かったと思ってしまう。それだけに、何かもうひとつだったような気が残ってしまった。
ひょっとしたら普通の演奏シーンだけでもよかったのかもしれない。それだけに残念ながら、映画が終わってもサントラを買う気にはなれなかった、せめてもう少し気に入った曲があったらな...。

というわけで今回はオワリ、また次回。