「es[エス]」

27/Aug./2002

  

1971年、スタンフォード大学心理学部である実験が試みられた。
被験者は新聞広告によって集められた24名。
彼らは無作為に“看守役”と“囚人役”に分けられ、
監視カメラ付きの模擬刑務所に収容された。
実験期間は2週間、いくつかの定められたルールに従い自分の役を演じること。
それが彼等に与えられた仕事だった。

刑務所という架空の舞台で、“看守役”と“囚人役”を演じるだけ。
被験者は誰しもが簡単なアルバイトだと考えていた。

しかし開始から7日目で実験は中止。
現在、この実験は禁止されている...。

ひさびさに行きましたテアトル梅田で観ましたのは、東京でも大ヒットしている話題の映画「es[エス]」。テアトルでもまだまだ好評。この日は19:35からの最終回、上映30分前に劇場へ到着しましたが、配られた整理券番号はすでに35番。その後、入場から席についても続々と観客は増えて、最終的には満席になりました。なかなかの盛況ぶりかと思います。

ちなみに“es(エス)”とは心理学用語で“無意識下の欲求”を意味します。自己を形成する3要素(エゴ、スーパーエゴ、エス)の中で最も深い部分にあたるそうです。
実際に行われたこの心理実験をベースにしたお話し。2001年ドイツの映画。当時実験が行われたアメリカでは未だ訴訟問題で裁判中である為、公開不可能な問題作といういわくつきの映画だ。

実験に参加するのは、凶悪な殺人犯でもサイコな変質者でもない普通の人間。しかしこのごく普通の人が、その与えられた役により人格が豹変する。本物の看守よりも看守らしく、より狂暴化する看守役。そして本物の囚人以上に囚人らしく、卑屈になっていく囚人役。役割が人格に与える影響力というものを、凄まじく明らかにしている。

この映画は舞台がドイツということもあって、かつてのナチス(ファシズム)を思い出させる台詞が一ヶ所だけでてくる。歴史上のナチスのユダヤ人への大虐殺も、一部の人間だけの所業では無く、環境によって変革した普通の人間も関与していたとすれば、この狂気は現代の人間にも起こり得る問題なのかもしれない。

しかし映画としては、うん?
映画として良くできたお話には仕上ってはいる。キャラの設定があまり意味なかったりしたもするが、なかなかの出来だ。しかしそれが逆にサイコ・スリラーとしては余分な足枷になったのかもしれない。もっともっとリアルな描写ができたかもしれないと思う。面白かった、がその面白さが恐怖を半減した、というような感じだ。僕が勝手にこんな風な映画だと想像していただけかもね(えらそうにスンマセン)。

まあ、話題の映画ですし観て損は無いでしょう、お暇な方はどうぞ。テアトルでは他にピンポンを観る予定です。
それではサイナラ