ピーターパンの公式/The Peter Pan Formula

あのクリップのように投げ捨てられれば...



  

昨年シネマートの韓国映画特集「韓流シネフェス」で上映された作品。
この特集はクソ忙しい最中に組まれていたので“観逃した”と感じる間もなくボクの目の前を通り過ぎて行ってしまった。この「ピーターパンの公式」前から一度は観たくて、スクリーンや字幕はあきらめて、ソウルにお邪魔するたびにDVDを探していた。それが日本のスクリーンで、しかも字幕付きで上映してくれていたのに...(涙)。
で、すっかり諦めていたのだけど、年末にお邪魔した鐘路3街のビデオ屋さんで「これある?」って聞いたみたら、「そやそやあのへんに...」って感じでごそごそ探し出してくれた。おやまぁ、こんなこともあるねんなぁ。それも「亀も空を飛ぶ」「インビジブルウェーブ」との三本立てのセット物(しかしこのセットの取り合わせは凄いなぁ!)。これやったらなんぼ探しても見つからんはずや...。

全体のトーンは極めて静か。
導入も含めて、散文的に心象と事象が語られる。

高校生。
水泳に明け暮れている。もう少しでタイトル(五輪出場?)が手に届くかもしれない。そんな時、ハンス(オンジュワン)は突然プールから上がってしまう。二人で暮らしていた母親。何の前触れもなく薬を飲んで自殺を図る。一命はとりとめたものの、病院の一室で寝たきり。
そんな日に、隣の家に新しい家族が引っ越してくる。暖かい色が漏れる部屋からは美しい音色のピアノが奏でられる。誰がそのピアノを弾いているのかはすぐにわかる。

今まで水泳の事しか考えたことがなかったハンス。いきなり直面する様々な事を考え処理しなければならなくなる...。
学校のこと、異性のこと、お金のこと、父親のこと、そしてピアノの音色のこと...。

画像はかなり即物的で、はっきり言って“奥を見通す”視線はそこにはなく、極めて“短視眼的”だ。だけど、この無骨な即物的である意味下品な視線で構成される画像にボクは共感してしまう。それは、もちろん程度の差はあるんだけれどボクも同じような道を辿ってきたんだなと、淡い郷愁を覚えるからだろうか。
画面からハンスの心の焦りが溢れ出している。
ただ、惜しいと思ったのが、隣の奥さんや病室が同じで看病をする女子大生そして隣の養女。こんな人たちって本当にいるの? いなそうでいるのかもしれないけど、ちょっと描かれ方が何ともステレオタイプで、どうもリアリティが感じられないんだなぁ。いろんな意味で。

ハンスが大人に成りきれないピーターパンかどうかは、わからない。
ただ、自分を取り巻いて押し寄せてくるいろいろな事。それをこなす公式(方法)がハンスには見つけられない。そして、ふと隣を見ると他の人たちはそのスイスイと(公式を使って)問題を解いている。
「じゃ、俺の公式はどこにあるんだぁ」と悩むその気持ちはよくわかるんだなぁ。

あんまり明るくなくて、青春の断面。
窓から投げ捨てられたクリップのように、自分も人生を投げ捨てられたら...。
オンジュワンよりも、どこか膿んだような薫りを感じさせるキムホジョンがいいですね。

おしまい。