ノーカントリー

えも言われぬ緊張感を強いられる



  

恐ろしく個性的なおっさんが登場する。
アカデミー賞の作品・監督・助演男優賞を受賞した作品。

何しろ、出だしがいい。圧倒的に説明不足で、その説明を補うに余りある映像を見せ付けられる。そして、まるでレウェリンの後ろからそっとついていてこの光景を眺めているような錯覚に陥る。やがて、何が起こったのかがぼんやりと理解出来るようになる。
200万ドル。これは概算すると、およそ2億円くらいか。もちろんやばいカネ。こうなったらスタコラサッサと逃げるしかない...。

中盤から後半にかけて、誰に感情移入しながらこの映画を観ればいいのかわからなくなる。最初は間違いなく大金を手にした男ルウェリン(ジョシュ・ブローリン)。でも、彼は意外と存在としては軽く扱われてしまう。結局、やっぱりこの映画の主人公は、偏執狂の殺し屋シュガー(ハビエル・バルデム)だったのか...。この視点の移り変わりが、テクニックで狙いであったのか、それとも単にブレてしまったのか...。
全体的なテイストは、「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」なんだけど、あの作品はストイックな男気がテーマだった。今回の「ノーカントリー」もある意味ではストイックで謎の殺し屋シュガーがジワジワとターゲットを追い詰めて行くものの、観ているこちらとしては“追い詰められる”恐怖をひしひしと感じながら逃げ惑うしかない。一層のことレウェリンをバリー・ペッパーに演じさせれば良かったのに...。もっとも、この映画の主役はトミー・リー・ジョーンズではなく、殺し屋のハビエル・バルデムに間違いない。

性格も圧倒的な悪さだけど、何と言ってもあの髪型。間違いなくアブノーマルな髪型。一度喰いついて狙った獲物は逃さない。ショットガンやライフルといった獲物で狙うのではなく、高圧ガスのボンベを使い、さらには保険をかけてカバンに無線装置を忍ばせる用意周到さには脱帽するしかない。しかも、留守宅に押し込んでは、牛乳瓶の冷え具合に注目し、電話会社の請求書からヒントを得るとは...。とにかく、人間的な思考が入り込むスキがない。目的のためであれば手段は問わない。まるで“イケてないゴルゴ13”のようだ...。

2時間を少しオーバーするくらいのこの作品。息つくヒマもなく、一気に観てしまいました。
本当は、いつレウェリンがシュガーをやっつけるのかと期待していたのに...。そんな思いはいつの間にかどこかへ行ってしまう。とにかくゴールが見えないこのチェイス。殺すのか殺されるのか、この静かに忍び寄る魔の手から逃れられるのか...。いやいや、途中からそんなことはムリだと思い知らされるのだけど...。

調べてみると、シュガーを演じたハビエル・バルデムは、なんと「海を飛ぶ夢」に主演していたというから驚き以外の何物でもない。あの映画ではもっと年を取っていた男優さんだと思い込んでいたのだが...。

とにかく、観て楽しいとか爽快という作品ではありませんが、表現しにくい緊張感を味わいたければ、それにぴったりのお話しだと思います。う〜む、映画って本当に幅が広いものなんですね。

おしまい。