トゥヤーの結婚

トゥーヤが教えてくれるのは、愛の本質(かな?)



  

今、ボクが毎日過ごしている日々の中で享受しているサービスは、何と恵まれているのかと、改めて思うし、感謝しないといけない。
井戸が枯れると10キロ以上も歩いて水を汲みに行く。馬に乗って遊びに行くと、幾ら俊敏な少年であっても、ひとたび天気の急変で嵐に出会うと、生命そのものの危機に直面する。それに、生きていくうえでの資本の根本は自分の身体だ。大自然を前にして、大自然を相手に生き抜いて行くには、動かない身体はもう邪魔モノにしか過ぎない...。

中国の内モンゴルの広大な草原が舞台。
物語りの軸は、この一家の大黒柱であるトゥーヤの再婚なんだけど、結果としてトゥーヤだけのお話しではなく、この一家全体のお話しになっている。すなわち、井戸を掘っていて、腰の骨を痛めてしまい、下半身が動かなくなってしまったトゥーヤの旦那バータルとやんちゃ盛りの息子とおしめも取れない赤ん坊。この四人が主人公なのだ。
夫婦って何か、家族って何なのか。そんな根本的なことを、このモンゴルの大草原に抱かれて暮らしているトゥーヤの一家が教えてくれる。

トゥーヤが出す条件。
子供と一緒に住むのはもちろんのこと、離婚したはずの元夫バータルとも同居することが、彼女の再婚の条件だった。
それは愛がある故なのか? いや、実はそんな単純じゃものではないのか...?
そんなことを考えたときに、ボクはトゥーヤの笑顔を観ながら、実は自分自身やボクの家族の姿を見ていたのかもしれないな...。

トゥーヤが求める再婚は、計算と妥協の上に成り立っているのだろうか。でも、人間が、毎日暮らしていく上では、計算だけではいかんともし難いものがあるのも事実。新しいトゥーヤの一家がこれからどうなるのか、ボクにはわからないけれど、きっと幸せな家族になるんじゃないかな、なんだかそんな気がしました。

皆さん、プロの俳優さんなのかな? トゥーヤが深い印象を残してくれるのはもちろんだけど、クルマで来て逃げられてしまうメガネのおっさん、そして近所に住み奥さんにトラックを乗り逃げされてしまうお兄ちゃんも印象に残ります。
それにしても面白いのが、この草原の口コミネットワーク。それに求婚にかける男達の意欲。トゥーヤの離婚が巻き起こした騒ぎは、文字通り草原に砂塵を巻き起こすし、殺到する男達の求婚者詣では圧巻。
また、砂漠化によって蝕まれていく草原の模様はもちろん、地球規模での環境変化を無言で教えてくれるし、大草原にもひたひたと押し寄せるモータリゼーションの波(しかし、単車もガソリンが切れれば単なる邪魔もの)。結婚は恋愛という個人の意志の結果ではなく、家と家との契約だという伝統的な考え方が根深く残っていることを伺わせてもいる。これらのさりげない描写が素晴らしいんだよなぁ...。

甘いだけ、いいところだけを描き分けたワケではないこの作品。ホロ苦い味を含みつつ、実はとっても好きな作品のひとつになりました。
それもそのはず、この作品は2007年のベルリン国際映画祭のグランプリ《金熊賞》の受賞作。それにトゥーヤを演じたユーナンという方で、プロの役者さんのようですね。他の作品でもお会いしたくなってきました。

おしまい。