ヒトラーの贋札

ドラマとしては「?」も、いい作品です



  

ボクは大阪と言っても阪急で通勤しているから、梅田を中心とするキタで活動(?)することが多い。そんなホームグラウンドであるキタ(もっとも、梅田で映画を観ることも激減中だけど)でも変っているけど、難波・心斎橋を中心とするミナミの映画館、ここ数年でがらっと変ってしまった。敷島シネポップは行ったことがないスクリーン。どんなところかなぁ...。
それに、「これはいいょ」と耳に届く情報はいいものばかり、どんなお話しなのか楽しみにして出かけました。

いいお話しだし、心も動かされた。でも、敢えて書くと...。
確かに、悪くない出来だし、面白いストーリーだった。でも、物語りの割には「何だか薄っぺらいな」と思ってしまったのは何故だろう。それもちゃんとした日本語の字幕が付いているのにな...。
それは、主人公の(カール・マルコヴィックス)があくまでも職人肌で、人情派ではないことがほとんど全てなのかもしれない。視線も物事の捉え方も、そして行動も極めてクールなのだ。悩みや葛藤、連帯など心情が入り込む余地がとても少ない。だから結局、ボクは「盛り上がりに欠けるな」と思ってしまう。
もう一つは、この物語りに主人公自らのゴールが設定されていないことも大きいな。すなわち、彼らは銃を持って闘っているわけではない(その是非は別の問題として)。だから、どうしてもお話しの結末については受動的にならざるを得ない。みんなで頑張ったとかやり遂げたという達成感から生まれる感動は生まれない。
う〜むと考えた。もう少しドラマチックに仕上げるなら、名も無き下働きの印刷工か、途中でちらっと出てくる鉄道員(やったかな?)などの主役たちとは別の視点をこさえて、その彼に語らせる手法はどうだったのかと。

しかし、大掛かりで、遠大なお話し。だし、しっかり作ってある。
サリーたちがこさえた贋札がスイスの銀行で鑑定を受けている時は、ボクの心もドキドキしてしまった!

第二次大戦下のドイツが舞台。ユダヤ人の収容所に実は偽札を作る秘密工場があった。
そこにはユダヤ人でも特殊な技能を持った男たちが集められていて、英国のポンド(しかしこんな紙幣やったんか!)や米国のドルの精巧な偽札制作にいそしんでいた。これらはナチスの資金源になるだけではなく、国際市場に大量に流通させることで一種の経済テロをたくらんでいた。
この工場で働かされているユダヤ人。強制的にこの業務に従事させられていたわけだが、精巧な偽札を作ることはナチスの政策の片棒を担ぐことになり、上手く作れなければ自分の存在そのものがなくなってしまう(殺されてしまう)という、二律背反の中でもがき苦しんでいた。彼らは、如何にしてこの収容所の中で生き残っていくのか...。

さて、冷静になって考えてみる。すると、この映画のテーマは何だったのか見えてくるような気がする。
それは、第二次大戦で何があったのか、何が起こったのかをしっかりと伝えて行こうとする姿勢だと思う。日本で作られる第二次大戦をテーマにしたり、時期設定にした作品は数多くあるものの、同じようなテイストの作品はまずない。すなわち、日本人が悪者となって描かれることはまずない。その姿勢の違いが戦後60年を経て取り返しがつかない大きなものになってしまっているのではないだろうか...。

いろいろ書いてしまいましたが、ドラマとしても、楽しめる作品となっていると思います。うわさどおりいい作品だなと思っていたら、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞しましたね。やっぱりなぁ、それだけの値打ちがある作品だと思います。

最後に、この敷島シネポップ。かなり地味な映画館ですね。それに奥行きに乏しい構造になっていて、今日みたいにガラガラだと何とかなるけど、半分も入っていればかなり苦しいのかもしれません。いかにも、東宝がムリして作りましたって感じがプンプンしてました。もっとも、ここでムリして観なくてもいいんだけどね...。

おしまい。