長江哀歌(エレジー)

これは天啓か、それとも気まぐれだったのか



  

ジャジャンクー監督の映画。「世界」は観逃してしまったけれど、その他は何本か拝見している。正直に評価すると、わからなくはないけど、メリハリがなくて、唐突に終わってしまう、割と饒舌で独善的な作品を撮る監督だと思っていた。その割には世界の評価は高くて、香港・ベルリン・ヴェネチアで賞を取り続け、とうとうこの「長江哀歌」ではヴェネチアで金獅子賞を受賞してしまった。
普通なら、それならすぐに観に行けば良さそうなものだけど、退屈な2時間を過ごすのだったらどうしよう...と躊躇しているうちに上映が終了してしまった(「世界」を観逃したのとまさしく同じ理由だ)。すると、ちょっとした所用で熊本へ行くことになり、何か映画やってへんかなぁと思って調べてみるとDenkikanという映画館で上映されていて、時間もどんぴしゃ。これはボクに「観逃したらあかんで」という天啓に違いない...。

結論から言うと、ずいぶんと枠に嵌ってきたというか、商業映画らしくなってきた。それでも、まだまだ説明不足な部分も多いけど。でも、これ以上矯正すると、ジャジャンクーらしさ(何が“らしさ”なのかはわからないけど)がなくなってしまうかもしれない。

世界的な規模の工事だという三峡ダムの建設が進む長江(揚子江)の流域にある街・奉節が舞台。
遥か彼方の山西省から、ようやくたどりついた冴えないおっさんが主人公。このおっさんは自分の許を去っていった奥さんを探しに、彼女の出身地であるこの街へやって来た。
一方、この街へ仕事に来て以来音信普通の旦那を探している奥さんも偶然山西省から来ていた。
この二人を軸にしてお話しは進む。しかし、この二つの軸は決して交わりはしない。

「烟」「酒」「茶」「糖」というタイトルとキーワードで章が分けられているものの、実はたいしたこともおこらないままにお話しは進んでいく。
きっと中国で暮らしている人々にとっては、このテンポでも実は凄くスピーディーなのかもしれないし、ソフィテケートされているかもしれないけれど、ボクにとっては凄く写実的でリアリティに富むテンポと映像の連続(決して“退屈”なぞではない)。
下船場所にたむろするオートバイ乗り、値段があるようでない宿賃、信じられないきょうな環境で飯を喰う船乗りたち、仕返しに金属バットを握って駆け出して行く血気にはやる若者たち、黙々と人力だけで進む解体作業....。

ボクがTVの画像を通じて知る中国は、五輪の準備が進む北京の街角であったり、デモ隊が進む上海であったり、買い物客が殺到して事故が起こる成都のスーパーのフロアであったりするのだけれど(まぁダンボールのブタマンもあったけど)、実はそれは中国のほんのひとつまみにしか過ぎず、中国にはいろんな捉えきれない姿があるのだな。
そんな当たり前のことを思い出させてくれる作品だと思いました。

年配のお客様を中心に30人ほどの入りでしたが、その中の何人がこの映画を観て満足されたのかは、ちびっと謎ですね。
熊本の市内の繁華街、アーケードの中に位置するDenkikan。映画館そのものは清潔で上品で感じが良いスクリーンだと思いました。お近くの方は是非ご贔屓にお願いします。

おしまい