ホリデイ

有銭無罪 無銭有罪



  

シネマコリア2007の二日目。

イソンジェってそんなに多くの作品に主演しているわけではないけど、実は、ボクには“合わない”俳優さんなんだと思い込んでいた。今まで拝見した中では「アタック・ザ・ガス・ステーション」が一番いいと思っていた。「シンソッキ・ブルース」と「風の伝説」はDVDは持っているけど、未だに持っているだけ...。
が、今回のこの「ホリデイ」での一番の収穫はイソンジェを見直したこと、彼が素晴らしい俳優さんであることを再認識出来たことなのかもしれない(この際「ホリデイ」後に「デイジー」に出演していたことには目をつむる!)。

例によって、ほとんど前情報を入れずに拝見した。
こんな脱走立てこもり事件が事実としてあったことはもちろん知らなかった。当然パルパルの頃の韓国の世相も知る由もないのだけれど、この映画を観ることにそれらはあまり関係ない。
もちろん映画だから、カンヒョクやその一味の行動は美化されているだろうし、そのままではないと思う。しかし、一方、彼らが置かれていた境遇はかなり真実に近いものがあったんだろうな、きっと。
ソウル五輪開催という世相、国家を挙げての近代国家へ驀進中だから、弱者はどんどん切り捨てられてしまう。国家権力と弱者との対立の構図が歪んだ形で表面化してしまった顕著な例でもあるのだろう。保護観察法というものがどういう趣旨で性格のものなのか、いまいちはっきりしなかったけど、とにかく“危ないヤツは外に出すな”というニュアンスであったことは想像に難くない。
冷めた目で見れば、どんな罪であろうと、それを犯してしまったからには処罰を受けるのは当然で、量刑もそれなりのもので仕方ないだろうと思ってしまうけれど、そこに社会的地位や金銭が絡んでくると、当然お話しは違ってくる。
なんとなく「国民は法の下では平等だ」とアタマの中で理解しているのは、実はオメデタイ日本人だけなのかもしれない。日本ではないお隣の国では100%“有銭無罪無銭有罪”ではないだろうけれど、ある程度核心を突いた言葉なのかもしれないなぁ...。 そう思わせるだけの説得力がこの映画にあるのも事実だし、実は現地のマスメディアからは今でもそんなニュアンスの報道が毎日のように流れて来ている(ような気がする)。(もっとも、日本だって社会保険庁の職員は納付された保険料は横領し放題だったそうだから、とても偉そうに言えないけどね)

映画は社会的な問題提議と、国家権力の象徴としての刑務所の副所長(チェミンス)対告発側の首謀者チカンヒョク(イソンジェ)の人間としての対決も描かれている。この二人の争いが、なんとも壮絶。国家権力の権化としてのチェミンシクは、法の権利の下で何の罪もない青年を射殺しても何のお咎めもなく自由な身分(オマケに昇進する)。一方、カンヒョクは(決して褒められることではないが、けちな窃盗事件で何年も刑務所暮らしだ。
法の裁きと、個人的な怨恨が入り混じって、事件は意外な展開を見せていく...。

しかし、韓国の映画って、刑務所や犯罪者が出てくるお話しが多いな。おかげで、出所祝いには、その精進落としには豆腐をそのままむしゃむしゃ喰らう習慣を、なんだか当たり前のことのように受け止めてしまうようになってしまった。
まさか、犯罪や刑務所が、韓国の庶民にとって身近なものではないとは思うけど、邦画に比べるとむちゃくちゃ出てくる頻度は高いと思う。「懐かしの庭」も主人公は出所してきたばかりだったしね。

で、主人公のカンヒョクを演じるイソンジェがいい。彼は女性が出てきて絡む役よりも、今回のようなストイックな男が絶対に似合う! 信念を持って行動すると、自然と人が集まってくる、そんな自然体の演技がいい。わざといい人ぶったり、悪い人ぶったりする演技はこの人には向いていないよね。
今まであんまり好きではなかったけど、本当に見直しちゃったな!
また、チェミンスも今回は出色の演技! この人、いい人的な役が多かったように思うけど、実はこんな嫌味でいやらしいお芝居が出来るんや! しかもごっつい似合っている! 路線変更した方がええんとちゃうかな。もちろん今回は従来の彼のイメージとのギャップが面白さの要因になってはいるのでしょうが...。
最後に立てこもる家庭。気丈夫な長女がくわいくていいのだけれど、妹の次女。この子(キムジソ」)はどこかで絶対にお会いしたことがあると思って調べてみると「拍手する時に去れ」の巫女さんだったんだねぇ(それ以外でもお会いしたような気もするんだけど...)。

誰がご覧になっても面白いのかどうかはわからないけど、かなり良く出来たお話だったと思います(もっとも、類似作とも思える作品もたくさんあるけど)。ストーリーの独創性や完成度を楽しむ作品ではないのかもしれませんが、ボクにとってはかなり面白い作品でした。

この日の1本目。当然、満席かと思っていましたが、けっこう空席もあって、それが少しだけ残念でした。きっとこの日二本目の「ラジオ・スター」は大入りだったと思いますが...。
ソチョンさんはじめ関係者、スタッフのみなさん。ありがとうございました、そしてお疲れ様でした! 来年も是非、シネマコリアの開催はもちろん、大阪での上映継続もお願いいたします!

あんにょん!