雲南の少女 ルオマの初恋

このままそっとしておきたいこともある



  

もう遥か彼方の昔に観たような気がする(気がするのではなく、その通りなんだけど...)。
商業的施設ではない東京都写真美術館ホールは恵比寿にあり、ゆったりとした座席は観易い。それに満席になるほどお客さんが押し寄せるような作品が上映されるわけでもないので、余計にゆったりしている。この日も20人ほどのお客さまで、いい感じでした。

お話しそのものは特にどうのこうのは言わない。
中国の作品は、モンゴルなどの草原が広がるところか南部の深い深い山の中でのお話しか、それとも北京や上海などの大都会を舞台にしたものか、その二つに大別出来る。徐々にではなく、物凄い勢いで近代化に突き進む中国において、都市部でもどんな田舎でも様々なカタチで現れるひずみは格好のネタになる。
今回も、何百年もの間変わることがなく綿々と受け継がれてきた雲南省の山深い里で暮らす少数民族のハニ族。ここに生まれ育った少女がいろんなものに触れながら人生の船出をしていく姿を淡々と描いている。

映し出される風景が美しい。この風景をいつまでも残してもらいたいけれど、劇的に価値観が変わっている現代の中国では、無理な注文なのかもしれないなぁ...。

ハニ族の少女ルオマは街までトウモロコシを背負って出かける。道端にしゃがみこんで買ってくれるお客さんが現れるのを待つのだけど、なかなか買ってくれる人は現れない。ただ、現金収入への切実な渇望が感じられないのは、まだ救い。
そんなある日、都会からこの街にやって来て写真館を営む若い男がルオマのトウモロコシを買ってくれる。でも、彼は高くはないトウモロコシの代金を払うだけの現金をも持っていない。彼は、お金の代わりにルオマにウォークマンを渡す...。
翌日、同じ場所でトウモロコシを並べているルオマは、外国からやって来た観光客に「写真を撮らせてくれ」と頼まれる。愛らしい容姿と彼女の美しい民族衣装が、外国人にとってはひどく魅力的に映るのだった。その光景に目を止めた青年は...。

都会への憧れ。その象徴としてエレベーターが選ばれ語られるのが、妙にリアリティがあるのだけど、どこかちぐはぐな印象も受ける。
しかし、知らなければ、それの方が幸せなこともあるんだな...。
都会の臭いもそうだし、恋愛だってそうなのかもしれないな。
ルオマを演じる女優さんはなかなかかわいい。でも、彼女も今ではすっかり都会の垢にまみれてしまっているかもしれないな。それを思うと、ちびっと切ない。

おしまい