ラジオ・スター/Radio Stra

枕元に置くぬいぐるみが哀しい



  

アンソンギとパクチュンフンがコンビを組んで主演し、2006年に公開された作品。
今年の6月にソウルへお邪魔したときにDVDやVCDを探したけど、まだ出ていなくて悔しかった。それが、早くも日本語字幕付きで拝見出来るとは、素直に嬉しい。
この「ラジオ・スター/Radio Stra」のために4年ぶりに福岡へ足を運んだと言ってもあながち過言ではない(シネマコリア2007での上映が決定するのは、このずっと後です)。

まず、ベテランの二人。もちろんいい味を出している。
ただ、悪くはないけれど、ボクとしては、若い頃の二人の回想シーンを、ムリを承知で別の二人に演じて欲しかったな。
そうすると、もちろん回想シーンも今の倍ほどの時間を割く必要があったはず。そうすることで、アンソンギとパクチュンフンと伍して共演するというごっついビッグチャンスを若手の誰かが手にすることが出来る。その結果、演技派の若手俳優が一皮剥けたり、誕生したかもしれない。
そんなことを思いながら、夢天神ホールからホテルへ向かう道すがら、傘をさしながら思っていた。
そう「ワイキキ・ブラザーズ」で若き日のイオルをパクヘイルが演じていたように...と。

かつてはレコード大賞の歌唱賞を受賞したこともあるチェゴン(パクチュンフン)。今ではしがない歌謡ホールや喫茶店で酔い客を相手に歌う毎日。しかも、そんな仕事もプライドだけが高いチェゴンにとってはどうでもいいこと。些細なことでもめごとを起こしたり、喧嘩をしたりして歌う場所をなくしてしまっている。
そんな歌手チェゴンを全面的にバックアップしているのが、デビュー前からのマネージャー、パクミンス(アンソンギ)。今日も放送局に出向いては、頭を下げ、ごまを摺ってはチェゴンのために仕事を取ろうと必死の営業活動中。

人生って、山もあれば谷もある。いい時ばかりが続かないのは誰でも同じ。そして、いい時に、あかんようになった時のための準備が出来るひとなんてほんの僅かだし、そんな人はえてして面白くともなんともない(かな?)。
それは、芸能界だけに云えることではなく、どんな人でもそういうもの。
ただ、駄目かもしれないけど、どん底の谷間にいる時、そこから這い上がるには自分だけの力や努力だけではどうしようもないのも事実。そんな時に手をさしのべてくれたり、手助けしてくれる人こそ、本当の友人なのかもしれない。
さぁ、我が身を振り返って、今絶頂にいるのであれば、得意気になっているかもしれないけど、本当の友人を思い出す必要があるかもしれない。そして、もしどん底であえいでいるのであれば、誰が助けてくれるのか、友人だと思っている人たちの顔を一人ずつ思い出すことが大切だ。

何も劇的なことは起こらない。予定調和の中でお話しは進んでいく。
でも、ボクの眼はスクリーンに釘付けにされているのは、二人から醸し出される演技の上手さであり、存在感のお陰なんだろう(きっと)。
パクミンスもチェゴンも、決して人格者でもなんでもなく、どこか抜けているお人好しさんなんだ。
どこにもいないし、いるわけもないのだけれど、この二人を見ていると、もしかしたら自分の近くにもこんな二人がいるかもしれない、いや、自分自身こそがこの二人のどちらかなのかもしれないと思ってしまうから、不思議。

チェゴンは片田舎にある、どうしようもないローカル局。何年も自前で番組制作をしたことがない地方局で、ラジオのDJの仕事にありつく。もちろん、本人が希望したのでもなんでもない。パクミンスが頭を下げてもらってきた仕事なのだ。

しかし、ラジオっていいもんだ。聴取者とDJとの距離感がいい。
どこにでもあるようなお話しなんだけど、やっぱり、ラジオというメディア、そしてアンソンギとパクチュンフンというベテランが織り成すからこそ、こうして心に染み入るのでしょうね。
韓国で“田舎”といえば、やっぱり江原道なんですね。ヨンウォルがいったいどこにあるのか知らないけど、時折映る街並みに、何もないだろうけど行ってみてもいいかな、なんて思いました。

シネマコリア2007でも急遽上映が決定したようです。肩の力を抜いて楽しめるいいお話しなので是非ご覧ください。また、ひょっとしたら、別のチャンスでも上映されることもあるかもしれません、いやいや、チャンスを逃してはいけません。福岡でご覧になられなかった方。是非、名古屋・東京・大阪と巡業するこの機会をお見逃しなく!
主演の二人以外にも、ローカル局の局長(チョンギュス)、飛ばされてきたディレクター(チェジョンユン)、エンジニア(チョンソギョン)、そして地元の若いバンドマンたち(ノーブレイン)もいい味出してます。オススメの一本です!

あんにょん。