ボンボン

ボンボンが連れて来た幸せは...。



  

一匹の犬が冴えないおやじにちょっとした幸せをもたらす。
実際にはこんなことはないような気もするけど、ひょっとしたらあるかもしれない。そう思わせるところがこのお話しの上手さだと思う。
それにこの犬のボンボン。かわいくないわけでは決してないけど、いわゆるかわいさがあるわけでもないし、何か芸をするのでもない。彼は黙ってクルマの助手席に前を向いて座っているだけなのだ。

アルゼンチンと云われても「あゝサッカーが強い国ね、マラドーナがいる」という程度しか知らない。ラテンアメリカにあって、かつては軍政でフォークランドを舞台にして英国と戦争もしたね。そんな国からやってきた、とぼけたでも味のある作品でした。

冒頭、主人公のこのファン・ビジェガスというおやじがどういう境遇にあるのか、結構細かく描写される。
今どき、ナイフを買う人がいるのかわからないけど、少なくとも、ファンが手先が器用なことと、商売があまり上手くないことがわかる。
永年務めたガソリンスタンドでの整備士の職をリストラされてしまった。住む家がないので、娘のところにやっかいになっている。奥さんとはもう20年も会っていない(愛想を尽かされて家を出てしまった?)。少ない年金(退職金?)で細々と暮らしていくしかない。まるで身につまされるお話しではないか...。
職安へ登録に行ったが、どうも当てに出来そうにない。そんなこんなで国道を走っていると...。道端でエンコした乗用車(ベンツ)を見かける。親切なファンは、クルマを寄せ事情を聞くと...。ファンベルトが切れてしまいエンジンが動かないらしい。牽引して運転していた女性を家まで送ることにする。
その家は農園の大邸宅。美味しいお茶とお菓子をご馳走になるが、ファンはお礼ならお茶やお菓子より現金か仕事を世話してくれたらいいのにと思っているのはよ〜くわかる(決して顔に出したり言葉にしたりはしないけどね)。おまけに、この親子は面倒を見切れなくなった犬のボンボンを押し付ける。人がいいファンは何故かこの犬を貰い受けてしまうのだ...。しかも、かなりでかい!
こうしてファンとボンボンのコンビが出会い、幸せへ向けての第一歩を踏み出すことになった。(もちろん、この時点ではそんな風にはいっこも見えへんかったけどね)

ファンがボンボンと出合ったことで手に入れるのは、どでかいものでもなんでもない。
金銭的には、正直云って大したことはない。でも、ボンボンと組んだことで、彼はもう一度人間として、自分の力で、生活を営んでいく糧を掴むことが出来た。そして“自信”を取り戻した。
飯を喰って、クソをして、寝るだけが人生なら、それは誰でもすることは出来る。だけど、人生はそれだけではないでしょ。誰かの世話になりっぱなしなのか、自力で何でも出来るのか。そして人間としての誇りや自信を持てるのか、失ってしまっているのか。その差は、実はとてつもなく大ききんだな!

ラストのオチ。きっとそうなんだ!と思った通りだったけど、なんだか、バカバカしいような気もしたけど、嬉しかった!
う〜。ネコもかわいいけど、イヌもいいなぁ。ボンボンのようなドゴ(ドゴ・アルヘンティーノ)はムリだけど。
イヌ好きな人も、そうじゃない人も、ちょっと疲れ気味の時に、ぼんやりと見るのには持って来いではないでしょうか。

おしまい。