ハンニバル・ライジング

前作の引き立て役に過ぎない



  

「レッド・ドラゴン」「羊たちの沈黙」「ハンニバル」に続くトマス・ハリスのレクター博士もの。しかも、新潮文庫からの刊行とほぼ同時に映画も公開される「ハンニバル・ライジング」。
ボクはもちろんアンソニー・ホプキンス演ずるレクター博士の心酔者だし、ジョディ・フォスター(決してジュリアン・ムーアではない!)のクラリスの大ファン。小説も映画もここまで猟奇的でかつ面白いシリーズも珍しい。
で、文庫が発売されると同時に買って読んだし、映画も封切りを待ちかねて珍しいことに初日のレイトに出かけた。

今回ばかりは、青年のレクター博士(いや、まだ博士になっていないか!)をアンソニー・ホプキンスを演ずるわけには行かないので、若き日のレクターをフランス人の若手ギャスパー・ウリエル。
お話しそのものは本を読んでいるからもう知っている。脚本も作者自身のトマス・ハリスが手がけているから味付けにもそう大胆さは無い。
今回のお話しの最大のポイントは“どのようにしてレクター博士が、人間から怪物となっていったのか”だとボクは思っていた。だから、コンリー扮するレディ・紫との掛け合いよりも、彼の頭の中にあるラビリンスがいかにして生成されていったのかを描いてもらいたかった(映画の中ではすっぱりと切り捨てられていたけど...)。そのためなのか、妙に表面上の事柄を追いかけるのに終始してしまい、薄っぺらいお話しになってしまったような気がしてならない。

日本風なのか、それともいたって趣味が悪い東洋風なのか。それについてはあえて書く必要もないだろう。あんな甲冑や大小があること自体が...。
それにしても、今回のコンリーは何とも損な役回り。ボクはこの役をコンリーが演ずるとは知らずに原作を読み終えて良かった。それほど、酷いし創造性の欠片も無い映画だった。

結局、今までの作品とは肩を並べるまでもない。映画のための原作であり、前作を引き立たせるためだけの作品だったのだろう。

おしまい。