親密すぎるうちあけ話

ちびっと挑発的な、妖しさ。



  

随分と前に東京で予告編を目にしたときから「面白そう」だとは思っていた。
その思いそのままに、ウィットにとんだ、いかにもフランス映画らしい掌品。こんなワサビがきいたようなお話し好きだなぁ。そら、大仕掛けな大作もいいけど、そんなお話しばかり観ているとあきてきたり退屈になったりしてしまう。そんな時のための一服の清涼剤のような存在、そう表現すると誉めすぎかな?

あるマンションの一室で、特定の顧客のためだけに営業している会計士ウィリアム(ファブリス・ルキーニ)。この部屋にそそっかしい依頼人が訪ねてくることからお話しは始まる。
そうだなぁ、ボクもアンナ(サンドリーヌ・ボネール、なんか姓も名もケーキ屋さんみたいな名前ですね)のように、ちびっと挑発的で魅力的な女性が突然やってきたら...。なかなか真実を打ち明けられないかもしれない。「もう少しいいじゃないか」って。

とにかく、ウィリアムとアンナだけではなく、秘書も心理カウンセラーも、出てくる人が皆さん魅力的。こんなマンションならボクも居を構えてみたい(きっとムリだろうけど)。このマンション、管理人のおばさんでさえ魅力的に思えるのだから始末に終えない。
もうまったく、存在していたり、起こりそうもないお話しなんだけど、ズルズルと引き込まれてしまう。それだけ語り口が上手い。

後半、このお話しはある意味ミステリアスに謎めいた展開になる。でも、ボクはこの演出はちょっと余計な感じがした。
それは、このお話しがウィリアムの事務所の内部だけで語られ、完結したほうがずっとスマートに思えるからだ。アンナの旦那は実物が出てくる必要など全くなくて、アンナの口から語られるだけで充分だ。
ナゾは謎のまま、ヴェールに包まれている方がいい。そういうことが可能な語り口だったのにな...。

男の夢なのか、それとも女の夢なのか。
それは観る人に委ねられている。
そんな一時の夢を、なんだかんだと言いながら、1時間半を一気に観せてくれるのは流石。
ファブリス・ルキーニは前から好みの俳優さんだったけど、この映画での発見はサンドリーヌ・ボネール。なんと「灯台守の恋」の人だったのか...。全く気が付かなかった。それどころか、監督のパトリス・ルコントが「列車に乗った男」の監督とはね。そう知ったらまだ観ていない「髪結いの亭主」を観たくなってきた(どこかで上映してくれないかな)。

神戸まで追いかけていったけど、淋しい入り。
地味だけど味わい深い作品。若い人には物足りないかもしれないけど。
ラストの南仏の光がまぶしかったです。はい。

おしまい