愛してる、マルスンさん

地味だけど、主演の二人がいい



  

抒情的なお話しだと思った。
確かにリアリズムあふれる背景なのだけど、どうもそれだけではない。そんな妙にうがった観方をしてしまったのはなぜだろう?
子供の目で見た、世情であり、母親の姿が描かれているように見せているけれど、実は子供の目は借り物で、もうとっくにおっさんになってしまったかつての子供が、昔を思い出して描いているのだろう(きっと)。

だからと言って、このお話しの魅力が減じるわけではない。それどころか、年を経ているからこそ、母への追慕の念は増しているのではないかな。難しい言葉を知らなくても、化粧が濃くても、紅茶を音を発てて飲もうと、自分の母親は一人しかいない。そんな懐かしさが、優しさがこの映画の画面にはあふれている。

息子はイジェウン。この子は「先生、キムポンドゥ」「花咲く春が来れば」でもそうだったけど、なかなか芝居が上手い。華はないけど実はあるタイプで、今は子役だけどこれから先が楽しみで仕方ない。上手く大人に成長して欲しいものです(もう少し身長も伸びて欲しいけどね)。
母親にはムンソリ。ボクには「オアシス」での演技が強烈な印象として残っているけれど、本当は「ペパーミントキャンディ」での哀しい姿もまぶたに残る。芝居が上手いと思ったのは「浮気な家族」。この人、ソルギョングの影響を受けて観ているせいか、カメレオン女優という称号を捧げたい。その役その役で本当に上手に演じ分けます。
こんな芸達者がぶつかると、えてして消化不良になりそうなものだけど、この作品ではそんなことはない。二人が奏でるハーモニーは見事ですね。そういえばこの二人「孝子洞の理髪師」でも母子を演じてました!

ただ、お話しが美しすぎて、そしてある意味とっても地味。誰もが哀愁を持って観るのでしょうが、それが感動にまでは至らない。いい話しだけどパンチが足りないのかな。
もっとも、地味だけど、変にお話しをこねくり回していない点はもっと評価されてもいいかもしれませんね。

アクセントになっているのが、家で下宿しているお姉さん。この人、確か「スーパースター カム・サヨン」に出ていたユンジンソかな。ちょっと大人し目のお姉さんを上手く演じてますね。お尻に注射のシーンには笑ってしまいました。

それにしても、あまり(ほとんど?)語られなかった父親。そして、幼い妹を抱えながら、母親の実家があるにもかかわらず、ソウルで暮らし続けた理由は何なんでしょう? これらがもう少し上手く処理されていたら、もっといいお話しになっていたかもしれませんね。

とにかく、主演の二人におんぶにだっこのこの作品。日本での劇場公開はどうでしょう? シネマコリアという企画でなければ字幕付きで拝見することは不可能であったかもしれません。そんな意味では、この作品の選択は、まさしく慧眼と言えるのではないでしょうか。ほんとうにありがとうございました。

あんにょん。