スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと

クリスティーナは無事に入学が許されたのかな?



  

こんな映画が上映されていたことさえ知らなかった。全くのノーマーク。
そうこうしていると、よくお便りをくださる林檎日記さんがこの映画をご覧になったとのこと、調べてみるとケイケイさんもご覧になっている。「そうなんだ」と思っていたら、平日にお休みをいただけることになり(いや、半場無理やりに休みをこさえて)京都に出かけました。近鉄の東寺駅のそばにあるみなみ会館。

ボクはあんまりハリウッドで活躍している俳優さんは存じ上げないんだけど、アダム・サンドラーは嫌いではない役者さん。「パンチドランク・ラブ」や「50回目のファースト・キス」でお会いしています。巾が広い芸達者な方ですね。それに優しい役が多いから、憎めない存在。
でも、今回はそのアダム・サンドラーですらかすんでしまうような、圧倒的な存在感を示しているのがパス・ヴェガ。しかし、驚いた彼女の履歴をちびっと調べてみると「トーク・トゥ・ハー」に出演とある。でも、ボクの記憶にはこの映画に彼女が出ていたとは...。もうちびっと調べると、なんとこの映画の中で演じられる劇中劇に出てくるサイレント映画のヒロインだったとは...。もう、驚きを通り越してる!
それどころか、「カルメン」という作品で主役カルメンを演じえいたのがこのバス・ヴェガやったんや(こっちは、すっかり忘れてた)! 
それはともかく、今回拝見した「スパングリッシュ」で名実ともに主役で光輝いているのはこのバス・ヴェガという女優さんですね。

20歳を前にした娘さんが、自分の半生を語るときに選んだのが、自分の母の生き様。娘のレポートを読み進める形でこの物語りが始まる。
この導入の部分がいいね、なんだか、観る人に安心とやすらぎを与えてくれる。少なくともこの母娘二人は幸せであろう生活を手に入れているということが暗示されているんだもの。今からどんな波乱万丈な物語りが展開されようとも、二人が死んでしまったりはしないということを知っているだけでも安心です(ボクはつくづく小心者です)。

まだ幼なかった自分は何もわからずに、母親に従っていくしかなかった。時には、路上で泣き叫んで反抗して...。
でもこうして、大人の仲間入りをする前に、自分を振り返ってみたときに、胸を張って「これが私の母親です」と紹介できるって素晴らしいことだと思う(いや、ボクだって本当はそうしたいけれど、恥ずかしくてなかなかそんなこと出来やしない)。

このお話しを観ながら、親子とは何なのか、子供を育てるとはどういう意味なのかを考えるともなく考えた。
それに、日本で暮らしているとほとんど意識することはないのだけど、人種としてのアイデンティティは一体何なのかということも考えさせられる。

自分の娘が幸せになって欲しいと思うのは、どんな母親だってそうだろう。ではその「幸せ」とは一体何なのか? その価値基準をどこに置くのか。それはとても難しい。
精神的に物質的に恵まれている状態で、しかも今までとは比較にならない環境で勉強することなのか。それとも、誰が何と言おうと、人間としてラテンの血が流れる人種として誇りを持てる(?)環境で頭角を現すことなのか。
米国という社会でいわゆる「成功」を掴む確率でモノを言うなら前者の方が圧倒的にチャンスは高い。でも、母親はそのチャンスの芽を摘んでまでも娘に自分が正しいと信じている道を歩ませる。それが彼女にとっても「幸せ」なんだと信じて。

コミュニケーションの手段としての言語(英語とスペイン語)は、さして重要ではなく、ここでは一つの象徴として描かれているのに過ぎない。
それにここで描かれているのは、白人社会とヒスパニック社会との対比だけではない、現在の米国や日本が置かれている拝金主義への痛烈な批判も描かれている。
そして、個人としての人間や、家族という組織の脆弱さも巧に織り込んである。
結局、フロールは信念の人なんだ。自分の考えにブレがない。このフロールに対比するカタチで描かれるデボラ(ずいぶんと損な役回りだけど)は、あらゆる側面において弱い。そして、何が正しくて何が誤っているのかをキチンと自分の中で判断できない。そんな弱い人間が築く家族とは、なんとも脆いものなのか...。
「幸せ」とはお金や物質的な満足感だけではないんやなぁ。そんな当たり前のことをつくづく思い知らされました。
何も100%フロールが全てにおいて正しいとは思わない。でも、その思いにブレがない人の言動には、他人を納得させる何かがあるんですね。
(しかし、最後のレストランではさすがの信念の人も...。いや、ここではフロールに冒険してもらういたかったような気もしますが....)

この作品は映画館のでっかいスクリーンで観るチャンスがあれば、そこでご覧になるのにこしたことはありませんが、地味に公開されてしかももう上映は終了してしまっているようです。でも、ビデオやDVDでご覧になっても充分にお楽しみいただけると思います(ビデオやDVDの発売(レンタル)はもう少し先になるかな)。娘のクリスティーナ演じるシェルビー・ブルースちゃんもかわいいョ。
久し振りに「エエ話し観たなぁ」って気になりますよ。二重丸のオススメです。
やっぱり、映画はちゃんと観ないと、どんなところに佳作が転がっているかわかりませんね。
林檎日記さんありがとうございました!
(しかし、同じ時期に公開されていたアルゼンチンの作品「僕と未来とブエノスアイレス」は、とうとう観逃しちゃった、残念。)

おしまい。