人魚姫/My Mother, the Mermaid/
(邦題:初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜)

済州版・初恋の来た道」


  

この映画は、昨年の6月にソウルへお邪魔した時に、タッチの差で観ることが出来なく、とても悔しい思いをしました。
チョンドヨンとパクヘイルの主演作。一言で表現すると「済州版・初恋の来た道」ですな。
何とも言えない珍妙な設定。都会で冴えないOL生活をしているチョンドヨンが、家出してしまった父親を探して、父母の故郷である済州島を訪ねる。そして、母の生家に近づいたとき、いきなりタイムスリップしてしまう。
訪ねたその家に住んでいるのは若き娘時代の母。チョンドヨンは、この娘時代の母と一緒に暮らし始める。過去においてチョンドヨンは母と娘の二役で大活躍しています。

いいお話しなんだけれど、ちょっと設定が甘くて、盛り上がりに欠けるのも事実。この凝った設定が感動にまで結びついていないのが、惜しいというか、もったいないというか...(でも無理やり感動作に仕立てていないところにも共感できるけどね)。 チャンツィーの(チャンイーモウの?)「初恋の来た道」では涙で頬を濡らしたけれど、この「人魚姫」は、アハハと笑い飛ばすしかない。それでも、誰にでも光り輝く時があったんだと、当たり前のことだけど忘れがちなことを思い出させてくれる、そんないいお話しであることは確かです。
若い時から守銭奴のような鬼婆(?)からチョンドヨンが生まれたのではなく、あんなに清らかで涙ぐましい努力をした娘さんが結ばれて、現在のチョンドヨンが生まれたのですね(ほっとしました)。

母チョンドヨンは、海に出て貝を採る海女(あま)をして生活を支えている。
貧しさからか、それともそれが当たり前だったのか、学校へは行かず読み書きも出来ない。そんな彼女は毎日自転車に乗って郵便を配達するパクヘイルに思いを寄せている。そして彼女は、彼が毎日家に来るように、弟に小遣いを与え自分に手紙を書かせている(あぁ、何ていう涙ぐましい努力でしょう!)。
そして、いつしかパクヘイルから読み書きを習うことになる。小学校で使う教科書と帳面・鉛筆・消しゴムをパクヘイルが持ってくる。母チョンドヨンは、悪戦苦闘しながらも少しっずつ文字を覚えていく...。
こんな母の姿を優しく、まるで母親のような眼差しで見守る子チョンドヨン。今まで知らなかった、父と母の恋の成り行きに目を丸くしながらも、口を挟んだり行動を起こすことは無い(大人だね)。

恋愛ものは顔の表情がものを言ってくれるので、字幕が無くてもほとんど理解できます。
特にチョンドヨンは喜怒哀楽をとても上手く演じ分けられるので、彼女の気持ち(主に母)が手にとるように伝わってきます。複雑な思いで母を見守る娘の気持ちも良くわかります。
それに対して、男のパクヘイルは表情が控えめで全てがわかるわけではないけれど、これはパクヘイルが悪いのではなく、男とはそんなものなんでしょう。そう思います。
それに、何と言ってもこの恋がハッピーエンドで終わることがわかっているので、とっても気を楽にして観る事ができるのです。

この映画は、若い世代が観るよりもある程度年齢を喰った「親の世代」の方にこそ観ていただきたいような気がしますね。昔の自分を振り返って「こんな時もあったな」と思い出すのも良いでしょう。それとも単に懐かしむだけではなく、明日への活力にしてもらうのも良いでしょう。いやいや、実は若い方にご覧頂いて、親も今の自分のように恋に身を焦がしたことがあったのだと再認識するのも大切なのかもしれません。
「振り返って我が身はどうなのか...?」ついついそんなことを考えてしまいました。ボクはまだ若いつもりだったけれど、この映画を観ていると、母親のチョンドヨンについつい肩入れしてしまうから、やっぱりおっちゃんになっているのでしょうね。

そうして、ようやく監督の意図がわかる。
「そうそう、何も偉大な人ではなく、市井に住むどこにでもいそうな人でも、一つや二つは映画になりそうな恋を経験する。人間はそんなもんでしょ」そんなことを、涙ではなく微笑みながらさらりと教えてくれたんでしょうね。

日本での上映はどうでしょう?
女優としてはチェジウよりもずっと格上の存在のチョンドヨンですが「スキャンダル」でもそんなに話題にならなかったし、パクヘイルも「殺人の追憶」では損な役だったしね。ちょっと難しいかもしれません。残念です。
それでも、胸がキュンとするのは本当です。ピュアな心をお持ちの皆さんはご覧になってソンはしない作品だと思いますよ。
今回でひとまずDVDやVCDで観た作品の紹介はおしまい。次回からは、ここ数日で続けてスクリーンで観た作品を紹介していく予定です。

おしまい。