下流人生/Low Life

韓国の現代史を知ってからご覧になれば...


  

チョスンウは割りと好きな俳優さん。 「クラシック/ラブストーリー」の印象も強いけれど、ボクには「春香伝」の彼が好きだ。そのチョスンウが「春香り伝」のイムグォンテク監督と組んでの作品だけに、期待も高まる。

はっきり言って、もうひとつ。
それは、観ているこちらが主人公に同化出来なかったし、彼に夢を見ることも出来なかったから。そんなテウン(チョスンウ)にあんまり魅力を感じなかった。それにテウンの奥さんになる人もね...、悪くはないのだけど華がない。
でも、これはこの作品の背景になっている60〜70年代の韓国事情を身をもって経験していないからかもしれない。これは「孝子洞の理髪師/大統領の理髪師」を拝見したときにも感じたことだ。“身をもって”どころか、韓国の近代史についての知識がなさ過ぎる。この時期の背景をちゃんと知っていれば、少なくともテウンの気持ちが1/10ぐらいは理解できたかもしれない。すると、もう少しはこの映画を観ての印象は変わっても不思議ではない。すなわち、この作品はほとんど海外市場を意識して撮られていないのかもしれません。

あれれ、と思っているうちにお話しはどんどん進んでいく。
高校生のテウンは、別の高校に乗り込んで行き、どつきまわして意気揚々と教室を出ようとしたとき、いきなり脚にナイフを突き立てられる。傷そのものはたいしたことはなかったけれど、このエピソードは強烈に印象に残る。テウンはこういう性格の人間なんだと。そして、自分を刺した男の家族(父親と姉)に出会う。
本当は、テウンの半生をブツ切りで描くより、このきっぷのいい男の高校生時代を学園ものとして爽やかに描いた方が面白かったのでは? とさえ思ってしまうなぁ。

そして時は流れ、このテウンという男のその後の20年ほどをカメラは追いかける。
ヤクザとしてのし上がり、事業家として失敗し、そしてもう一度成り上がって行く。その陰には姉さん女房の姿があった。
面白いのは、その新婚生活がアパート(長屋?)の一室からスタートし、テウンのその時の勢力(気運?)によって、もっとグレードの低い長屋から、お手伝いさんが何人もいる一軒屋までどんどん変わっていくことかな。
ストーリーの主軸はテウンに置かれているのは確かだけど、テウンだけが描かれているのではなく、奥さんや家族の視線も忘れられていないこと。一家で食事をするシーンがとても多いのも印象に残ります。
だから、テウンという男の20年を借りながら、実は庶民レベルの20年も描こうとしていたのかもしれない。でも、イムグォンテク監督のその試みはあまり成功しているとは思えない。何かどっちもつかずになっているような気がします。

スカッとするような作品ではなく、確かにチョスンウのかっこ良さや演技力は認めるけれど、ちょっとどよよんとした気持ちになります。
日本での公開はどうでしょう? チョスンウ人気と韓国きっての巨匠イムグォンテク監督のネームヴァリューをもってしても、シンドイかもしれません。
この映画を楽しみたい方は、韓国の現代史をしっかり頭の中に入れてからご覧になることをオススメします。

おしまい。