王の男/King and the Clown

困難度が増せば増すほど、「思い」は美しい



  

ボクは同性愛のお話しはあんまり好きではない(いや、断然、嫌いだ)。
でも、とっても珍しいことに、この「王の男」ほとんど嫌悪感を抱くことなく観ることが出来た。それどころかジャンセン(カムウソン)に共感さえ持った。余計な先入観を持たずに拝見したこと、セリフの理解度が低かったこともあったと思うけれど、かなり早い段階でベースには同性愛があることがわかったにもかかわらずだ。

カムウソンとうい俳優さんは「スパイダーフォレスト 懺悔」に主演していたそうだ。ボクはこの映画を観たし、どんな作品だったかもちゃんと覚えている。この映画でのカムウソンはイソンジェを少し太くしたような感じで、特に記憶に残るような演技を披露していたわけではなかった。それがどうだ、今回の「王の男」では、まさに堂々とした主役を演じきっている。役者さんは時にして化けるものだ。

「王の男」を観ながら思い出していたのは「風の丘を越えて〜西便制」だった。「風の丘を越えて」は韓半島が近代化を迎え、やがて衰退するしかないであろう伝統芸能のパンソリを継承していく厳しさと難しさ、そして人と人との繋がりを丁寧に感動的に描いた傑作。
でも「風の〜」とこの映画の類似点は、伝統的な大衆芸能を描いていることだけで、描かれている世界は全く違う。この「王の男」は、芸の難しさや、伝承の重要性を語っているのではなく、芸人だったジャンセン個人の思いと生き様を鮮烈に描いている。

時代背景は残念ながらよくわからないけれど、そんなに大昔ではない時代のことだろう。
あるところに大道芸人の一座があった。人が集まるところで綱渡りの演技を見せ、見物客から小銭を集める。ストーリーがある芝居を見せると言うよりも、口上を述べて人を呼び、そこで軽業を見せる、即興的なサーカスのようなもの。ジャンセンとコンギル(イジュンギ)は仲違いした一座から抜け、別の道を辿ることになる。都にたどり着いた二人は、そこで三人組の大道芸人(そのリーダーがユヘジン)と知り合い、一緒に興行を打つようになる。
そんな彼らの一座を見かけたのが、宦官のチョソン(チャンハンソン)。王を笑わせることができる宮廷で披露する余興を探していたのだ。
チョソンによって宮廷に招じられたジャンセンたち、やがて自分達の芸を披露する順番が回ってきたが、王の前に出るとさすがの彼らも緊張してしまい、ジャンセン以外は青ざめた表情で動きもままならない。しかし、機転を利かせたジャンセンとコンギルのパフォーマンスに、王は初めて大声を出して笑うのだ。
チャンスを生かしたジャンセンたちは豪華な食事を与えられ、さらに住居も与えられ宮廷付きの芸人としての生活が始まる...。

こんな書き方をすれば、まるで芸人のサクセスストーリーのようだけど、実はこれは表面的なお話し。
ジャンセンは見たままの男役であり、コンギルも「見たまま」女形である。この二人の関係が実はどうであったのか、あからさまな描写はないものの想像に難くない。しかも、大道芸人の女形はある意味“男を売る”ことを生業にしていたようだ。そんなコンギルの姿に耐えられないジャンセン。もともといた一座と仲違いしたのも、それが原因だったことが明示される。
そしてコンギルは王の寵愛を受けることになる。それも含めたこの一座と王の関係、そして宮廷の内部に渦巻くさまざまな権力抗争に翻弄されることになる。

ボクがこの作品をソウルで拝見したとき、この映画が大ヒットするという予感もなければ、評価が高いわけでもなかった。ボクもチャンジニョンの演技には期待していたけれど、そんなに構えて、気合を入れて観たわけではない。
それがどうしたことだろう、午前中の回にもかかわらず、400名は入れるスクリーンは最前列まで埋まり、しかも多様な年齢層。女性が多かったのは、時間が時間だけにそんなものだろう。そして、クライマックスにはハンカチを手にして涙ぐむ姿が目に入った。韓国のお客さんは実に正直なのだ。感情の吐露に躊躇がなく、ストレート。

この映画のテーマは何だったのだろう。それは「思い」だったような気がする。ジャンセンのコンギルに対する性を超えた一途な「思い」が見事に昇華され描かれていることが、この映画を観るものの心を揺すぶったのではないでしょうか。損や得、あるいはもっと純粋に自分の命さえ顧みない純粋な「思い」(≒愛?)が描かれていた。
結局、テーマが「思い」であるがため、男女間では描きにくい、親子や兄弟でもない。もっと普遍的で純粋な「思い」を描くためには、その思いの対象が同性である必要があったのかもしれないな。だからこそ、きわどい情景を描きながらも観る側に嫌悪感やアレルギーを起こさせない良質の作品に仕上がっているのだと思います。

正直云って、この映画に関しては、言葉の壁は想像以上に分厚く、ボクはちゃんと理解できていない可能性が高いです。だから(まず間違いなくこの映画は字幕付きで上映されるでしょうから)もう一度拝見したい。その上でもう一度評価したい作品です。字幕付きだと、ガラっと評価は変わってしまうかもしれません。今の段階では、かなりのおすすめです。お楽しみに!

おしまい。