ファミリー(原題)

せっかく戸を直したのに



  

今まで大阪には映画で人を呼べるイベントや映画祭はほとんどなかった。強いて言えば「ヨーロッパ映画際」が細々と開かれているくらい。でも、これも東京や九州からわざわざ観に来られるタイプの映画祭ではなかった(ように思う)。シネヌーヴォや天六のホクテンザで単館の特集上映(中国映画祭や韓国映画祭)はあったけれど、それは映画祭とはほど遠い催し物だった。
それが、日韓友情年を記念したイベントの一環として「OSAKA ASIAN BEAT」が開催され、その一部として「韓国エンタテイメント映画祭 2005in大阪」が行われる。映画祭とは少し違うけれど、日本で初めて上映される作品も含めて8作が、二日間で一挙に上映される。しかもそこそこの大きさを誇る器のリサイタルホールが会場なのが嬉しい!
同時に別会場のシネヌーヴォで、前夜祭を含む日韓名作映画祭も開催。仕事の関係で前夜祭には行けないのが残念だけど...。
この催しが来年以降も開催されるとは思えないけれど、少々規模が縮小されてもいいから続けて欲しいなぁ...。
前夜祭で上映される作品以外は日本での劇場公開は決定しているようなので、今回を観逃してもいつかチャンスは巡ってくるとは思うんだけど、折角だから、この映画祭で観たいと思い、クソ忙しいのに土日で一挙8本連続鑑賞することにしました。

韓国版のDVDを持っているのに、まだ封を切っていない。地味な作品だけに日本での上映は無いと踏んでいたのだけど、スエの人気なのでしょうか?
パソコンの小さい画面で見るよりも。大きいスクリーンで観る方がいいのに決まっているし、字幕なしで鑑賞するよりも、日本語字幕付きで観る方がより楽しめるに決まっている。従って、悩む必要も無く、午前中からリサイタルホールへお出かけしました。

正直に言うと、こんなお話しだとは思っていなかったし、驚いた。自分の気持ちには相容れないものがあったのも事実。でも、ひょっとしたら、親子の関係とはこんなものなのかもしれない。ドライではなく、とてつもなくウェットでどろっとしたもの。傍観している第三者からは推し量れないものが内包されているものなのかもしれない。人生の修羅場や分岐点は、そこへ到達したものにしかわからないものがあるんだろう。従って、ボクだってそんな場面に立ったとすれば、今とは全く違う行動を取ってしまうのかもしれないなぁ...。

どこか人生を斜に構えた若い女ジョンウン(スエ)が出所してくる。
ジョンウンがなぜ刑務所に入っていたのか、これからどうするのか、いろんなことが徐々に説明されていく。そして、込み入った舞台の背景も上手に説明されていく。
犯罪から足を洗って真面目に働き、ソウルではない地方都市で美容院を開業したい。そんな夢を持って出所してきた。全くヤル気がない形式だけの保護観察士に斡旋された美容院に住込みで働くことになった。その前にかわいい弟ジョンファンが待つ実家に行ってみよう。母親とは死別している、実家にいるのはまだ幼い弟と、市場で小さい魚屋を開いている父親だけ。

この家族、いやジョンウンと年老いた父親(チェヒョン)の心の葛藤が描かれる。
子は親を疎ましく思い、親は子に手を焼き厳しい言葉を投げかけるもののいつまでも子へかける情愛の深さは変わらないのだ。
今度こそしっかり更正してくれると、信じていないけれど、信じている。裏切られるかもしれないけれど、父親がしてやれるのは、娘を無条件に信じることだけなんだなぁ...。

ジョンウンは組織から足を洗おうとするが、足を洗うどころか逆にどんどん深みへ誘い込まれようとする。そこを何とか踏みとどまっているのだが、何せお金が絡んでいるだけに相手も執拗。本人だけではらちが開かないと見るや、父親の魚屋や勤め先の美容院にまで押しかけてくる...。
子は親とはいつまでも存在するものだと思っているけれど、実はそうでもない。弟のジョンファンから父親が常用しているクスリの存在を教えられ、訪ねて行った父の親友である医師から父の病状だけではなく、隠されていた過去の出来事について知らされる。

ションウンは自分の力で切り抜けようともがくけれど、事態は好転しない(まるで、昔日のヤクザ映画を観ているみたい)。そんな娘の様子を見ていた父親が取った行動は...。
あまりにも唐突なこの行動にボクは驚くのだけれど、今となっては、何故か頷けるような気もします。

ボクは幼い弟として説明されているジョンファン、ひょっとしたらジョンウンの子供なのかもしれないと勘ぐっていたんだけど、やっぱり弟のようですね。

劇場公開されても、華があるお話しではないので興行的にはちと苦しいかもしれません。でも、ある意味ご覧になる価値はあるかもしれません。その評価はご自身の目でお確かめください。
スエという女優さん、先日「私の結婚遠征記」にも出ていたのですが、気が強いというよりも芯が強そうな面構え。今までの韓国の女優さんとはちょっと違う雰囲気をお持ちの方です。今後が楽しみです。

おしまい。