ふたりの5つの分かれ路

観る人を選ぶ映画だ



  

8月下旬に東京へお邪魔した際に観る予定をしていたけれど、その日は初日だったこともあって、日比谷のシャンテ・シネで予定していた回は“満員御礼”で入れなかった。ようやく大阪で公開される。珍しく前売り券を買って備えてました。
「スイミング・プール」でボクの度肝を抜いてくれたフランソワ・オゾン監督の新作だけに、今度はどんな仕掛けをでボクに(?)挑んでくれるのだろうか...。結構期待で胸は膨らんでいました。

とにかく驚くのは女性の“恐ろしさ”。
何もこの映画に出てくる女性が強かったり、インパクトがあるのではない。そうではなく、主人公のマリオン(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)が、生活に疲れ果てた中年の主婦から、若さあふれる娘時代までを一気に演じてしまう、その幅の広さにボクはいささかビビってしまった。

普通は、ある程度一気に時間を遡り、その位置からお話しがスタートし、そこからは時の流れに沿って物語が語られるものだけれど、この映画では、どんどん時代を遡り続けてしまう。
離婚調停に臨んだばかりの二人。この二人にどんな過去があったのか、そしてどんな出会いがあったのか。それをボクの前に逆回転しながら披露してくれる。5つのパートに分けて語られる逆回転。その手法は韓国映画「ペパーミントキャンディ」でボクの心に強く残っている手法でもある。

もし、ボクが20代、それも前半であったなら、ここで語られるお話しは面白くともおかしくもなかったに違いない。でも、40も半分を過ぎようかという今では、いろいろ思うところがあるお話しなんやなぁ...。二人の気持ちが、痛いほどに。恋愛は腫れた惚れただけではない。そして、結婚ももちろんそう。腫れた惚れたの連続ではなく、何もかもが日常のほんの些細なことの積み重ねなんですねぇ。そんな何も起こらない日常の機微を上手く捉えている。

ちょっとしたキッカケで、本人も気が付かないうちに歯車が喰い違いはじめる。そんな小さな喰い違いの積み重ねなんやなぁ。本人は気が付かないから、その小さな誤差が大きくなったときに、はじめて慌てふためく。でも、もう既にどうしようもないほど問題は大きくなっていて、本人は理由もわからないんだ。まぁ、ジル(ステファン・フレイス)はちょっと身勝手過ぎるような気もするけどね。

若い人よりもある程度年齢と人生の経験を重ねた人向けですね。「スイミング・プール」のような劇的な展開を期待すると、それは裏切られます、きっと。観る人を選ぶけれど、ピタリと嵌るといつまでも深く印象に残る作品となるでしょね。
ボクが観たOS劇場C・A・Pはシャンテ・シネと違ってガラガラでしたけどね...。

おしまい。