ライターをつけろ

100円ライターで人生が変わる



  

全くのノーマーク。何の期待もしていなかったので、事前にストーリーを調べることも無かった。正直「ジェイル・ブレーカー」のついでだと思っていた。
が、これがね、意外なことに面白かった! 思わぬ拾い物で嬉しかったなぁ!

主演はキムスンウ(余談ですが、イミヨンの別れた旦那ですね)。この人、結構映画やTVドラマに出ているのに、ボクはちゃんと拝見するのは今回が初めてのような気がします。
キムスンウの相手役(?)にチャスンウォン、ボクが勝手に“韓国の丹波哲郎”と名付けているパクヨンギュ(国会議員)も手堅い演技を見せているし、贔屓のイムンシク(タコおやじ・チャスンウォンの手下)、ユヘジン(気弱な乗客)、カンソンジン(とにかくよく喋る予備役の兄ちゃん)も出てますね。ソンジル(チャスンウォンの義兄弟)、イウォンジョン(南原?の警察幹部)も顔を見せてます。なるほど「新羅の月夜/風林高」の顔ぶれなんですね。

最初は「どんな話しやねん」って、ちょっと斜に構えて(疑いのまなざしで?)観ているのだけど、1/3ほど進んだところから一気にお話しに引き込まれてしまった。
ちょっと惜しいのは、ボンク(キムスンウ)がどれだけ情けなさを描くエピソードに、ちびっとスマートさがなくくどく感じたところでしょうか? でも、泥臭いこの描き方こそ、後半へのいい伏線になってはいるのだけれど...。

30を過ぎても定職に付けず、交通費にさえ事を欠く冴えないボンク。軍隊の予備訓練(兵役を終え除隊した後、数年間参加を義務付けられている訓練)に召集されているが、部隊へ行くバス代も食事代もない。仕方ナシに、就寝中の親の財布からわずかな紙幣をくすねようとするが...。
とにかく、何をやっても駄目なボンクは、なけなしのカネで買ったウドンは地面にぶちまけてしまうし、ちょっと昼寝のつもりが寝過ごしてしまい、午後の集合には4時間も遅れてしまう。挙句に、別の日の再教育を申し渡され...。さらに、現役時代訓練中にへこたれてしまい特殊部隊に入れず、食事係に任命された辛い過去も思い出してしまう。
どうにか、この日を終え、部隊の前からバスに乗ろうとするが、30ウォン足りなくて乗れない。「どうして俺はこんなについてないんだ」と嘆いてもどうしようもない。
思いつく限り電話をかけ、迎えに来てもらおうとするが、皆つれない返事をよこすだけ。部隊前の売店で何か食おうとしても、ボンクの持ち金300ウォンでは食べるものは買えない。唯一つ買えるのは使い捨ての100円ライターだけ。やけくそになったボンクは赤いライターを買い、シケモクに火を付けた...。
紆余曲折を経て、ようやくソウル駅までたどり着いたボンク。用を足しに駅にあるトイレの個室に落ち着いた。一息ついてタバコを一服。さっき買ったばかりの赤いライターをペーパー・ホルダーの上に置いたまま個室から出てしまった!

そのライターを取り戻すために、ボンクは今までの人生を取り戻す賭けに出る。
「こんなのありか?」思わずそうつぶやいてしまう。でも、人生って何がきっかけになるのかわからない。
今までの負け犬人生をたった一夜で塗り替えることが出来るのか。普通なら出来ない。でも、愚直なボンクだからこそ、人生の逆転を自らの手で成し遂げることが出来たんだね。
ボクは素直に嬉しかった。ある意味、ボクの人生はヘマばかり。ありとあらゆるチャンスをふいにして、分岐点という分岐点では間違った方向へばかり向いていた。まるでボンクのように。でも、それでも挫けずに生きていれば、いつかきっとチャンスがやって来る。一発逆転のチャンスが!
もちろん、そんなことはボクだけが思っているのではない。ボクみたいな落ちこぼれのオヤジがこの映画を観て、ほんの一瞬でもいい、夢を見られる。そんなお話し。そう、夢でもいい。ほんの一瞬でいい。

「今頑張れるんやったら、今までなんで頑張れへんかってん」なんてことは言わなくていい。 人生なんて、そんなものなんだから。
チャンスがあれば、是非ご覧いただきたいです。面白いです。

ちなみに、今もセマウル号は走っていますが、KTXの開通に伴い本数は激減しています。ソウル駅も新しい駅舎の供用が始まっています。
それにしても、ボンクはあの後、釜山からどうやってソウルへ帰ったのかなぁ?

おしまい。