プライド 栄光への絆

もうちょっとお客さん入ってょ!



  

どういうきっかけでこの本のことを知ったのか覚えていない。専門誌に紹介されていたのか、それとも人づてに聞いたのか。でも、まだインターネットがほとんど知られていなかった頃だから、アナログ的な情報で仕入れたんだろう。

その本は「フライデー・ナイト・ライツ」 H.G.ビッシンガー著/岸本完司訳 \2,940 中央公論社 ISBN4120022420 発行年月1993.9

米国テキサス州にあるオデッサという街の高校のアメリカンフットボール部のシーズンを描いたノンフィクション。
当時、石油不況で町中があえいでいる。そんな中で住民が唯一希望を見出すことが出来ること、それは街の高校「バーミアン・ハイ」のフットボールチーム「パンサーズ(愛称:モージョ)」が州チャンピオンになること。今期はやってくれそうだ、いいメンバーが揃っているし、ヘッドコーチも外部からプロを雇っている。
初夏のある日、メンバーたちがスタジアムに集まってくる。秋のシーズンに向けこの日がモージョの始動する日だ。

高校のクラブ活動のチームに、専用のスタジアムがあること(しかも、天然芝のフィールドに立派なスタンド付き)、プロのコーチが指導すること、そして何よりも地元のマスコミも巻き込んで住民が熱狂すること。どれを取っても驚きの連続。秋から冬のシーズン。金曜は高校生、土曜はカレッジ、日曜はプロ(NFL)のゲームが組まれ、アメリカ中が熱狂するのだ。地区のリーグで上位二校に入れば、州チャンピオンを決定するプレーオフのトーナメントに進出出来る。

何人かの三年生にスポットライトを当て、物語りは進む。
驚異的な身体能力を持ち、ヤードを稼ぐブービー。超高校生級で、有名なカレッジのスカウトたちから注目されている。冴えないが地道な努力を重ねているQBマイク。ステート・チャンピオンに輝いた年の花形選手を父に持つWRドン。そして主将のチャベス...。
フットボールをやる理由や目標は各々違う。そんな集団を一つにまとめて、勝つことを半場義務付けられている職業としてのヘッドコーチ稼業。この街では花形プレーヤーだとしても、三年生のほとんどはこのシーズンが終われば、もうプレーすることはない。生涯最後のシーズンを闘う。
秋のシーズンの金曜の夜、それぞれの思いが交錯し、昇華する。

原作を読んだときに、米国の普通の人たちの生活にこれだけアメリカンフットボールが浸透していることに驚いた(テキサスが特にそうなのかもしれないけど)。そしてプレーする高校生たちの普段の生活はさておき、ゲームに臨む真剣さには度肝を抜かれた。緊張で押しつぶされそうになって試合前に吐いたりはしない。そして、感動した。
NFLの選手たちは、フットボールにおいては選び抜かれたエリート中のエリートなんだ。日本とは底辺がまるで違う。そう思い知らされた。
また、映画化やTVドラマ化は考えられなかった。アメリカンフットボール、観戦していてとても面白いスポーツだけど、映像にはとてもなりにくい。
「アメリカンフットボールはルールがわからない」そんな声をよく耳にする。確かに日本ではまだ一般的なスポーツではないかもしれない。でも、そんなに難しいわけではないので、是非一度スタジアムで観戦して欲しい。
この作品を観る際にも、このスポーツやルールを知っているのには越したことはない。でも、何にも知らなくてもある程度は楽しめるようになっています。

主演のヘッドコーチには「チョコレート」や「バーバー」に出ていたビリー・ボブ・ソーントン。今までとは一転した抑制が効いた演技が素晴らしい。
この作品はユナイテッドシネマの独占上映。公開初日に岸和田まで行って来ました。この日二回目の上映。が、250名は入れるスクリーンにお客さんは10名もいない。ありゃ〜。所詮日本でのアメリカンフットボールへの認識ってこんなものなのよね。
本当は、皆さんに大きいスクリーンでモージョの悩みと活躍をご覧いただきたいですが、それはちょっと苦しいかな。ビデオやDVDが出たら一度ご覧下さい。スポーツ観戦がお好きな方なら楽しめると思います。

さぁ、本棚からボクの数少ない蔵書の一冊「フライデー・ナイト・ライツ」を取り出して、もう一度読んでみようかな。

おしまい。