フェーンチャン ぼくの恋人

日が暮れるまで遊びまわっていた、あんな少年時代に戻りたい



  

甘い甘い郷愁に浸れる作品。
確かにボクの場合、子供が出ているだけで評価も甘くなるけれど、それだけではない魅力がこの映画にはあると思う。

都会で暮らす青年ジアップ。
この週末は、学生時代の親友の結婚式。新調したスーツを受け取り、クルマに乗り込む、後は目的地へ向かってクルマを走らせるだけ。混雑する都会の雑踏を抜け、ようやく高速に乗った。順調に走り始めると、ケイタイが鳴る。出てみるとその電話は、故郷に住む母からだった。
「昔、近所に住んでいたノイナー覚えてる? 今度結婚するんだって。あなたに披露宴の招待状が来ているけど、行く?」
「いや、今日はこれから友人の結婚式なんだ、だからそっちには行けないよ」
そんな言葉を交わし、母からの電話を切った。
しばらく走り、何か音楽を聴こうとして、ハンドルを握りながらグローブボックスに手を入れて探り出したカセット。そこから流れ出した曲は...。

その曲、ボクならどんな曲になるのだろう?
南沙織の「17歳」、それとも風の「ささやかなこの人生」、吉田拓郎の「御伽草子」、はたまた甲斐バンドの「HERO」かな、それとも...。
何かの拍子で、流れてくるそのメロディを耳にした瞬間に、身体はそのままなんだけど、気持ちが一瞬にしてタイムスリップしてある情景の中に飛んでいってしまうことがありませんか? その心のロックを開くキーがどんな曲なのかは、その人によって違うと思うけど。
残念ながら、ボクはタイのちょっと古いヒット曲は全く知らない(もちろん、今の曲もさっぱり知らないのだけれど)。でも、そんなことは、この映画を観ることに何の関係もない。
ハンドルを握りながらジアップの心は、遠いあの日に飛んで行ってしまった。

それは、きっと誰にでもある幼いころの思い出。
ある日まで男の子も女の子も境無く一緒に遊んでいたのに、その日から突然、異性とは遊ばなくなる。同性同志でつるんで遊ぶようになる。それは一種の通過儀礼なんだろう。
そして、昨日まで一緒に行動していた仲良しの女の子に対してキツイ言葉を投げかけてしまったり、傷つけるような行動を取ってしまう。理性では「悪いことをしたな」とわかってはいるのだけれど、他の男の友だちの手前、女々しいことは出来ない。
子供時代のノイナー(フォーカス・ジラコン)とジアップ(チャーリー・タライラット)が抜群にかわいい! この二人を取り巻く子供たちもいい(特に男の子たちはみなしっかり個性を発揮している)。それに、少年時代のつくりがとっても丁寧に作られている。誰だって、こんな経験の一つや二つを思い出として心の奥に持っているはず。
ジアップはおねしょこそもうしないが、いつまでたっても朝が弱くて寝坊ばかり。後味が悪い別れ方をしたばっかりのノイナーが遠くの街へ引っ越してしまう朝も寝坊をしてしまい、彼女に謝ることもさよならを言うことも出来なかった。彼女を乗せたトラックを追いかけるジアップの顔に流れていたのは汗なのか、涙だったのか。

青春モノと言うよりも、もっと幼い頃の思い出。
ボク自身もこの映画を観ながら、自分の小さな思い出の小箱を開けてしまい、なんだか甘酸っぱい思いに浸ってしまいました。
さすがに、タイで大ヒットを記録した作品。いい感じです。オススメ!
が、大阪ではナビオで2週間のみの上映。しかも、朝から昼にかけての3回だけ。もう上映は終わってしまいました。今後、丹念に調べていただくか、ビデオやDVD化されるのをお待ちいただくかしかないですね。

おしまい。