アイ・アム・デビッド

笑い方を知らない



  

続けてOS劇場C・A・Pでもう一本。ここは空いているとなかなか見やすい映画館。でも、混んでいるとちょっとツライ。端っこの座席はちょっと見にくい。でもゴールデンウィークの狭間のこの日はがらすき状態。

実話ベースらしい。原作を読んでみたくなった(まだ読んでないけど...「アイ・アム・デビッド」 角川文庫 ISBN:4042948014)。
主人公のデビッドを演じる少年(ベン・ティバー)がいい。この子の表情はほとんど神がかり的(?)。

舞台は第二次世界大戦後のブルガリア。この国は地理的な要因からか東側の陣営に組み込まれ、共産主義国家が建設される。ドイツから解放され、恐怖は去っていったはずなのに、依然として恐怖政治が行われていた。すなわち、共産党に組しない思想を信望する人々は強制収容所に隔離されていた。まるで人種差別ではなく思想差別のホロコーストだね(今も、この地球の上のどこかで同じような光景が...)。
そんな収容所で暮らすデビッドはまだ12歳。子供でも大人と同じような重労働を課せられている。そんなある晩、手引きによって収容所からの脱走を試み、そして成功する。
決して開けてはいけないと言い含められた封書を片手に。 『ひたすら南へ向かい、ギリシャへ向かい、そして船でイタリアへ入り、その後はデンマークへ行くのだ』と、また『決して誰も信用するな』とも言われていた。

お話しはちょっとした謎を含んだまま進行していく。
それは、デビッドの脱走を手助けしてくれたのは誰なのか? という謎。

さまざまな人と出会い、困難に立ち向かいながらデビッドはギリシャへの国境を無事に越え、船でイタリアへ上陸する。イタリアでは今まで知らなかった豊かな世界があることに驚く、一方で触れ合う人たちからは「君は笑顔を知らない」と指摘される。
お金はないけれど自由に街を歩き、野を駆けるのは幸せだ。でも、街角ですれ違う自分と同い年ほどの少年。その横には優しそうなお母さんがついている。
淋しい。もし、聞かされた言葉を信じてデンマークへ辿り着けたとしても、そこに一体何が待っているのか? 自分はそれすら知らない。

南イタリアのある村。火遊びから火事になって燃え盛る小屋から少女を助ける。
そこでデビッドが得るのは束の間の休息。だけど、デビッドは何日も休んではいなかった。「誰も信じるな」ひょっとしたら、こうして休んでいる間にも追っ手が迫っているかもしれない。明け方、彼は屋敷をそっと抜け出す。少女のベッドサイドに「パンの神様(名前を忘れてしまった!)」のカードを残して...。

イタリアからデンマークへ行くには、アルプスを越えスイスに入らなければならない(こうして映画を観ていると、地理にも強くなるね)。どうやってこのデイビッドが高い山を越えるのだろうかと心配していたら、神は決して見捨てない。
ストーリーはここからは雪崩のように進展していく、そうか、そうだったのか。
それで、あの本が何度も何度も映し出されていたのか!

涙ぐむお話しでもないけれど、目頭が熱くなる。
石鹸のエピソードもそうだ。

そして、到着する飛行機を待っていたのは...(どこかで見たことがある魅力的な女性だと思ったら「恋に落ちる確率」の美女マリア・ボネヴィーでした。びっくりした!)
デイビッドは幸せだ。こうして脱出を果たし、生と自由を取り戻すことが出来た。でも、こんな幸せを手に出来ない人も少なくなかったはずだし、今でも苦しんでいる人がいるのだろう。一日でも早くそんな境遇にいる方が解放されますように。
OSでの上映はもう終わっています。チャンスがあればご覧になっても損のない作品だと思います。

おしまい。