海を飛ぶ夢

自分のことは、自分で決める



  

スペインの映画。 静かなお話しだけど、後々までも余韻が残る作品。
何も難しく考えて、身構えて観ることはない。平常心で観て、そして「生きる」とか「考える」とかについて考えてしまう作品。派手さはありませんが、チャンスがあれば是非ご覧いただきたい映画です(きっと、チャンスもあるでしょう)。オススメ。

あまり説明がないまま、物語りは進む。しかし、徐々に全貌が明らかになって来る。
主人公のラモン・サンペドロ(ハビエル・バルデム)は25歳の時に事故で首の骨を折り、それ以来26年間寝たきりの生活を続けている。一命は取りとめたものの、首から下が動かない。そして、この生活を続けてきた彼はある決意をし、行動に移す。しかし、意志はあっても、手も足も動かすことが出来ない彼には何も出来ない。決意はしても、実行は出来ない。
すなわち、ラモンは自分で自分の人生に終止符を打つ決断をしたのだ。しかし、彼の決断に手助けをした者は殺人罪やその幇助罪に問われかねない。ラモンは、自殺する権利、尊厳死を認めるよう裁判を起こす。
熱く語られるわけではない、劇的な出来事があるわけでもない。淡々とラモンの日常が語られ、ラモンの家族の生活の様子が垣間見え、そしてラモンを取り巻く四人の女性が語られる。

普段、何気なくそして漫然と生活している。時には仕事や社会に対して不平を言いながらも、ボクは元気に、自らの意思で歩き、食べ、排泄をして、そして着替えて寝る。
そのことを、当たり前のこととして受け止めている。さらに、あまり考えたことはないけれど、もし絶望したら、首を吊るなり、崖から飛び降りるなどして、自分の考えで究極の行動を取ることもできる。そりゃ、周囲に迷惑を掛けるだろうけれど、生物学的には自己完結できる。これって、ボクには当たり前なのかもしれないけれど、ラモンにとっては夢のようなことなのだ。

対照的な女性がラモンの周囲にいる。その一人ひとりが見せるラモンへの愛情。接し方や表現方法はまるで違うのだけれど、彼女達それぞれが見せる愛に、ちょっと心が共鳴した。
アクセントになっているのが、ピント外れの聖職者。そして、彼の従者。あの訪問の後、従者は聖職から離れていったのではないかな。そんな気がしました。

自分のことなのに、自分では決められない。
自分で決められないとは、なんとも言えずにじれったい。そして、悲しい。
新たな生が生まれる。一方、もう何もわからなくなってしまい、自分のことも決めるどころか、考えることすら出来なくなってしまう。人間が生きていくこと、死んでいくこと。一筋縄では行かない。振り返って我が身を、我が人生を大切にしようと思った。

何が大切か。やっぱり、自分のことを自分で決めることでしょう。

おしまい。