スパイダー・フォレスト〜懺悔

天六で観るのがしっくりくる作品



  

天六というのは不思議な空間。梅田からそう遠くもなく、少し無理すれば歩けない距離でもない。それなのに、もう都会的な雰囲気はまるでない。下町の匂いが「色濃い」どころか、天六は下町そのもの。
そして、ユウラクザ、ホクテンザを有するこのシネコン(?)シネマファイブビルも、都会の映画館ではなく、どこか新幹線は通っていないけれど、在来線の特急は停まる、そんな地方都市の駅前アーケードのはずれにひっそりあるような、そんな感じの劇場。
このビルに5つのスクリーンがあり、そのうち2つはポルノ専門。後の三つは、東宝や松竹の作品がロードショーで上映されることもあれば、二番館的に遅れて上映されたり、ミニシアター系の作品が関西ではここだけで上映されることもある。かと思うと中国映画祭や韓国映画祭が思い出したように企画されることもある。そのラインナップは独特のものがあり、あなどれず目が離せない存在。

この映画館が独特なのは番組だけではない。映画館とお客との距離が微妙なところがいい。
夜が遅くなるとおっさんになるが、昼間はおばさんがモギリでぽつんと座り、このおばさんと言葉を交わしたことはない。ロビーには装飾物などは一切無い。売っているのは、自動販売機で買う飲み物だけ。チケットは自動販売機で買う。お客は映画を観るという純粋な目的以外で、この映画館に触れることはまずない。映画のプログラムはおばさんの横に申し訳程度に並んでいるだけで、その他のグッズなどは何も無い。
だからと言って、嫌いではない。客層が客層だけに、なかなか好きにはなれないけれど、ここまで独自色が濃い劇場はなかなか無い。これからも頑張ってもらいたいもの。だけど、もう少し雰囲気を変えるだけで、女性客も増えると思うのですが、どんなものでしょうね。

で、今回この天六ユウラクザで拝見してきたのが、韓国映画「スパイダーフォレスト」。韓国映画は結構網を張っていて、現地でどんな作品が公開されているのかは知っているハズだったけれど、この映画に関しては何故か全くのノーマーク。どんなお話しで誰が出ているのか、どんな評価だったのかをちっとも知らなかった。
ある日ぴあを見ていると、ユウラクザで謎の韓国映画の上映情報が掲載されていた、そんな感じ。このところ、ユウラクザで何本か観たけれど、この作品に関しては予告編も流れていなかったしなぁ。

結論を言うと、これが意外なことに面白かった(ボクはちょっとへそ曲がりなのかな?)。
雰囲気は「殺人の追憶」のような感じで、内容は他愛の無い(?)ホラーもの。で、結局のタネ明かしは「やっぱりな」って感じだったけど、全体がチープな雰囲気の中で良く健闘していると感じました。
韓国のホラーものは恐いのは恐いけれど、最終的にどこか辻褄が合わなかったり、謎が謎のまま放置されて欲求不満が残ったりと、ちょっと荒っぽい仕上げが多いけれど、今回もしっかり踏襲されています。
「一体誰が電話を掛けてきたのか?」これって、ストーリーのために、強引に持ってきたように思えなくもない。時間の流れも、考えれば考えるほどおかしい!
いやいや、あまり細かいことに気を取られていてはアカン。

テレビ局に勤めるカンミン(カムウソン)は、ある日ふと気が付くと森の中で気を失っていた。
起き上がり、ふらふらと森の中をさまよっているうちに、一軒の家にたどり着く。その家の中で目にしたのは、目を覆わんばかりの惨状。男が血だらけになり、テーブルの上で仰向けに倒れて、息絶えている。一方、女性がベッドで血だらけになって横たわり、こちらは虫の息。
良く見ると、男はカンミンの上司であり、女は同じテレビ局に勤める彼の婚約者ではないか! 一体誰がこんなことをしたのか。二人はどうしてこの家の中にいたのか? そして、自分は何故ここにいるのか?
ふと振り返ると、誰かが外から部屋の中を見ている。カンミンは部屋から飛び出し、その者の後を追うが...。

ありゃ〜! もう何が何だかわかりません。
だけど、映画を観ている最中は「わからない」ことはあまり気にならないから、ちょっと不思議。
記憶を失ったカンミンは、旧友の刑事を訪ね、あの森で経験したことを話す。森の中にある家で見た光景は果たして、幻だったのか、それとも現実だったのか...。
ぐいぐいとストーリーは進んでいき、カンミンは過去へさかのぼる。失われた自分の記憶をよみがえらせるために過去のある時点までもう一度戻る。そして、様々な思いが自分の心の中によみがえってくる。そうだ、自分は部長の指示で体調が悪いにもかかわらず、地方にある写真館に一人で取材に出掛けたのだ。幽霊が出るという森について語ってくれるその写真館の女に会うために...。

背筋が凍って、全身が寒いもで覆われるような、そんな怖さはありません。一応、ドラマ仕立てになっていて、男女の愛憎劇や古い過去にあったエピソードが披露されたりします。
主演のカンミンを演じていたカムウソクは全く知らない俳優さんですが、写真館の女性を演じていたのが「魚と寝る女」のソジョン(しかも二役)とは、帰ってくるまで気が付きませんでした。
必見とは思いませんが、そこそこ面白いです。チャンスがあればご覧になってもいいかもしれません。ただ、今後映画館で上映される可能性はそんなに高くないかもしれませんね。

このところ、天六のユウラクザは2週替りで、関西ではここでしか上映しないアジア系の作品をどんどんやってくれるので、嬉しい限りです!

おしまい。