甘い人生/a Bittersweet Life

あゝ、もったいない!



  

鐘路三街は映画館が多い街角だった。 ご存知ないかもしれないけれどハンソッキュウとチョンドヨン主演の作品「接続」。ここで重要なシーンとして出てくるのが、鐘路三街の交差点の北西にある映画館ピカデリー、ここは通りからちょっと奥まった位置にあり、この通りからの入口付近にあった建物の2階にあった喫茶店。当時はスターバックスもなかったんですよね。この喫茶店で、チョンドヨンはハンソッキュに待ちぼうけを喰らわされる。そう言えば、この映画で大事なキーワードがE-mailとポラロイドカメラ。まだデジカメも出始めたばっかりだった。
それが、このピカデリーも、喫茶店が入っていたビルも、通りを挟んで向かい側にあった団成社もほぼ同時に取り壊され、シネコン化される工事に入っていた。
この工事中にあちこちに新興のシネコンがオープンして「映画を観るなら鐘路や忠武路」というイメージはすっかり薄れてしまった(ような気がする)。
それが、昨年の末からこの春にかけ、劇場の名前はそのままに相次いで新装オープンしている。
ピカデリー前の例の喫茶店も、ピカデリーの入口エントランス付近にあったスターの手形はなくなったままだけどね。
この付近は、今もたくさん映画館があり、ソウル劇場もすぐ近くにあります。徒歩圏にスクリーンが密集しえいるので、ハシゴするには便利な地区ですね。鐘路三街の復活でしょうか?

スカラ座からは短い区間だけど、地下鉄で一駅分ある。陽気もいいし、一本道だから歩きましょう。が、ボクの記憶にある場所にピカデリーがない。あせったなぁ。この地区を歩くのは久し振りだし、途中の 清渓川は工事中で雰囲気は一変しているし、ここかなと思っていたソウル劇場も改装され外観が一変している。あれれと思いながらも、新装された団成社のビルを発見し、どうやらピカデリーが入っているビルにたどり着けた。でも、今度は入口がわからない!
実はビルの一階の宝石屋(?)がまだ準備中で、ガランとしていて、全然映画館らしくない。横にある地下に通じる階段が見つけられなかったし、屋内の「illy」のカフェの奥にあるエスカレーターも発見できなかったなぁ。ここでもかなりあせった。
チケットブースやスクリーンが地下3階にあるのは想定外だったからね。

で、ようやくたどり着いたピカデリーで拝見したのが、イビョンホン主演の「甘い人生」。
イビョンホンは嫌いな俳優さんではなく、どちらかと言うと好感を持っていたけど、どうしてここまで日本で人気が出たのか、それがよく理解できない。やっぱりTVドラマの影響は大きいんですね。彼は紅白にもゲストで出てたしね。
金曜の18時の回。200名ほどの小ぶりのスクリーンに、40名ほどの入り。ソウルのほとんどの劇場では前日から先行上映していたとは言え、一応公開初日のこの時間で、この入りなのには驚きました。
実は、満席でチケットが買えないのではないかとさえ危惧していたのに、拍子抜け。やっぱり熱心なファンは舞台挨拶がある回でご覧になるのでしょうかね。

お話しはちっとも面白くない。
イビョンホンが徐々に自己破滅に向かって行く様子が丹念に描かれているのだけど、そもそものストーリーに必然性が無いことと、勧善懲悪という基本線がねじれてしまっていて、映画を観ながらイビョンホンの心情について行けない。
正直に言うと、かつての東映ヤクザ映画となんら変わらない。これって、主演がイビョンホンじゃなかったらどうしようもない作品に仕上がっていたのではないでしょうか?

確かに、イビョンホンの演技には凄みさえある。観ていて「凄惨」という言葉を思いつくし、「そこまでやるか」とも思う。だけど、その理由があれではなぁ。
「ほんの一瞬の躊躇が人生を一転させる」そんな意味かもしれないけれど、ボクに言わせれば、彼がもっとまっとうな生活を築いているのであればいざしらず、ホテルの支配人をしながら、ヤクザの親分に仕えているような役回りであるのなら、いつかはこんなことが起こったんじゃないかな。
とにかく、俳優のルックスの美しさや演技の見事さとは別として、語られる物語に魅力が無ければ苦しい。
“殺(や)らなければ、殺(や)られる”と言うのもわからないわけではないけれど、その理由のスケールの小ささに、思わず「たかがそんなことで」と...。

さらに、ボクにとって決定的になったのがヒス(シンミナ)の扱われ方。この映画で描かれている彼女はまるで自分の意志を持たない「モノ」のようではないか。彼女の感情とは関係なく、まるでペットで飼われているイヌやネコを保護するかのような扱いなのはどうしてなのか。もう少し人間的に、自分の意思表示をして、ボスへの反抗心をあらわにしたり、イビョンホンへの淡い恋慕でもいい、モーションでもいい、そんな部分が少しでも挟み込まれていたなら、もう少しこの映画への評価が変わったかもしれない。

導入で踊るように職場(ホテルのレストラン)を巡回するイビョンホンは軽快で隙が無く美しい。
だとすれば、同じ背景を借りて、このホテルかレストランを舞台にして全く別の物語りを語れなかったのだろうか? あゝ、もったいない!

どこかの公園の裏に生き埋めにされ、そこから泥だらけになって這い出すのもご愛嬌なら、ラストのラストで“SHINWHA”のエリックが全くのセリフなしで登場するのもご愛嬌でしょうかね。

現地では公開最初の週末のソウルでの観客動員数は、同時公開された「拳が泣く」に僅差で敗れたようです。その後もそこそこの数字は残しているものの、パッとしていない様子。それも頷けるし「ソウルの方もちゃんと映画を観る目があるんだな」と妙に感心してしまいました。

「さぁ、早く紹介しなくっちゃ」と思っている間に、もはや日本でも公開されています。日本公開版と韓国公開版は同じなんでしょうかね。お時間があればどうぞ。
ちびっと酷評してしまいましたが、イビョンホン迷の方なら、そこそこお楽しみいただける内容なのかもしれません。

次回は翌日に同じくピカデリーで拝見した「拳が泣く/crying fist」を紹介する予定です(やっと順番が回って来た!)。

おしまい。