マラソン/Running Boy

チョコパイを追いかけて



  

昨年の6月以来、久し振りに韓国へお邪魔しました。
思い立ってから、出発するまでの期間が短かったので、慌しく準備をしてどんな映画を上映しているのかはあんまり情報を仕入れていなかった。今回は初めて大田(テジョン)へ行くので、この街でも映画館へ行けたらいいかなと思っていたけれど、夕方の早いうちから酔っ払ってしまい、それは次回のお楽しみになりました。

大田からソウルへKTXで移動し、ホテルにチェックイン。
待ち合わせにはまだ時間があるので、まず、千戸(チョノ)へ。ここの駅の上にある映画館で「マラソン/Running Boy」を上映しているのはネットで調査済み。しかし、フロントでいろいろお願いごとなどをしているうちに時間が過ぎてしまい、上映時間もギリギリ。駅の改札からダッシュで向かう。初めて行く映画館だけど、千戸はまだ土地勘があるので助かる。そしたら、ネットで調べていた時間より、実際には10分遅い時間割が組まれていてほんとに滑り込みセーフになった。
封切りされてから随分日数は過ぎているのに、さすがヒット作だけあってそこそこ入っている、そう広くない劇場だけど半分以上の入り。平日の夕方だからか、親子連れが多いのが目立つ。

日本でもそこそこ知られているチョスンウ(「春香伝」「クラシック/ラブ・ストーリー」)が主演。きっとそう遠くない時期に日本でも劇場公開されると思います。

チォウォン(チョスンウ)は先天性精神疾患(自閉症?)を背負い、養護学校に通っている。そんな彼が「走る」ことに興味を覚え、ただ走ることで自分自身を発見する様子を暖かい視線で描いている。
チョスンウが一皮剥けた演技。以前から芝居が出来る役者さんだったけれど、この「マラソン」が彼の代表作になるような気がします。もっと凄いのがチォウォンの母親(キムミスク)、そして怠惰なコーチ(イギヨン)。この二人もとってもいい。
そしてボクが最も注目したのが、チォウォンの弟を演じたペクソンヒョン。この子、多感な少年役を見事に演じている。ルックスも良いので、今後ブレイク必至。名前を覚えておいて損はないと思います(日本で放映済みのTVドラマに出ているそうです)。あんまり出てこないけれど、お父さん(アンネサン)も時々見かける方ですね。

実話ベースだという。
ただ走り続けるだけなのに、どうして観る者を感動させるのだろう?
それは、損とか得とか、そんな打算的な部分を一切排除してチォウォンの走り続ける姿に、もうとうの昔にボクが無くしてしまった純粋さを思い出してしまうからだろう。
駆け引きも、ペース配分も何もない。走りたいから走る。走れるだけ走る。足が前に出なくなるまで、倒れるまで、ただひたすらに走る。人より速く走りたいとか、順位を少しでも上げたいとか、完走したいとか、そんな考えはない。これって、凄いことだよ!
もちろん、チォウォンが走るのは一人で勝手に走るのではない。チォウォンが走るために、母親の献身的な愛情があり、コーチの愛のムチ(?)があってのこと。
このとんでもないコーチ(どうして元トップランナーがこの学校にいるのかは不明)、考え方によっては彼こそ最も現実的な存在。夢を追いかけるよりも、現実を見つめている。これが普通なのかもしれないな。それにしてもスモモは美味しそうだったなぁ。

好きなのか、嫌いなのか。走りたいのか、走りたくないのか。どんな風に走りたいのか。そんな簡単なように見える意思表示も出来ない息子。そんな息子にフルマラソンを走らせること(しかも3時間を切るという目標を持たせて)は、チォウォンのためではなく、自分自身の目標達成のためではないのか?
チョコパイやメダルを餌にして、自分(母親)の満足を得るためだったのではなかったか? コーチとの言葉の応酬が繰り広げられる。
そして、母親は一度は夢を諦めることを決意する。その夢はチォウォンの夢だったのか、それとも母親の夢だったのだろうか?

「どうして、そこまで?」

その答はチォウォンの心の中にだけある。
そして、その純粋さをほんの少しだけでもいいから分けてもらいたい。
それにしても、母親が息子を思う気持ちは、万国共通なんですね。

シマウマのエピソードは、どうも笑うに笑えない。
ところどころに、日記の文字が出てくるのだけど、ボクにはいまいち理解出来なかったのが残念。その部分も含めて、これは是非、日本語字幕でじっくりと拝見したい作品です。

おしまい。