レオポルド・ブルームの手紙

棘が心をチクチク刺激する



  

つくづく教養は大切なんだなぁと実感してしまう。
この「レオポルド・ブルームの手紙」という映画は、20世紀最高の物語と称されるジェームス・ジョイスの「ユリシーズ」を現代の米国に舞台を置き換えられ、それを下敷きにして語られているそうだ。なのに、ボクは「ユリシーズ」という小説のタイトルは知っているけれど、読んだこともなければ、その本を手にとったことすらない。だから、当然どんなお話しなのかも知らないし、レオポルド・ブルームが「ユリシーズ」に出てくる人物の名前だということすら知らなかった。
そういうことを知って観るのと、ボクのように何も知らずに観るのとでは、随分印象が異なるのではないでしょうか。
こないだのクラシック音楽にしろ、今回の小説にしろ、ボクにはつくづく教養が欠けていると痛感させられる。ちびっと悲しい。

予告編を見て想像していたお話しとは随分と違った。
まるで、昔の日本の私小説を読んでいるような気分にさせられる。明るくパッとしたストーリーではなく、暗く気が滅入ってしまうようなお話し。もちろん、最初から明るいファンタジーだとは思っていなかったけれど...。

主人公が刑期を終え、収監されていた刑務所から出てくるところから始まる(これが韓国映画なら、豆腐にかぶりつくところだけど、もちろんそんなシーンはない)。そう云えば「バッファロー66」も同じような始まり方、あちらの方が暗かった。こちらは、さんさんと降り注ぐ明るい太陽の下での出来事なのに、何故か受けるイメージは「バッファロー66」とはくらべものにならないほど陰鬱な感じ。ここから楽しい話しが展開されるとは、微塵すら感じられない。
やがて、迎えの車がやって来る...。

ここからとても込み入ったストーリーが展開される。
全く愛情を掛けられることなく育った少年。実の息子でありながら、その息子を愛することが出来ない母親。授業の一環で手紙を書くことによって、受刑者と文通が始まる。その受刑者は刑期を終え、超保守的な街角のダイナーで働き始める。
時が様々に交錯し、頭がこんがらがる。
しかし、いつの間にか全くバラバラに進んでいたかのような物語りが、互いに干渉しあい、やがてボクの頭の中でも全体像へ焦点があってくる。そうか、そういうことだったのか!

この主演の男優さんは、どこかでお会いしているハズ。でも思い出せない。ダイナーでウェイトレスとして働く薄幸の女もインパクトありました。サムシェパード(ダイナーのオーナー)も実にいい味だしています。

はっきり云って、楽しくなったり、ハッピーになるお話しではない。でも、なにかこの映画が、ストーリーが、持っている棘が、ボクの心をチクチクと刺激したのも確かです。エンターテイメントとしてではなく、文芸作品のような映画ですね。

おしまい。