ベルリンフィルと子どもたち

見応えのあるドキュメンタリー



  

すいません。
すっかり更新が滞っているうえに、調子に乗って次々と映画を観続けているものですから、どんどん書かなければならないものが溜まっていく一方で、すっかり消化不良を起こしています。それでもコツコツと書いていく予定ですので、気を長くしてお持ちください。まぁ、誰も待っていないかな?

さて、大阪九条にあるシネヌーヴォへお邪魔しました。ちょとご無沙汰していました。派手さはなく、燻し銀のようなキラリと光る作品を上映してくれる、大阪でも貴重な劇場の一つです。
今回拝見した「ベルリンフィルと子供たち」も、東京で上映がはじまったというウワサを耳にして、早く来ないかなと待ちわびていた作品。

本当に残念なことに、ボクは音楽に関する素養が全く無い。
特にクラシックにはとんと縁が無い生活を送っている。ラジオから流れてくるクラシックの耳慣れたメロディに気付いてもそのタイトル名がわかることは、まずない(ダメだねぇ)。もう何年も日曜の朝、NHK-AMで皆川達夫さんの「音楽の泉」を聞いているというのに...。
今回のストラヴィンスキーの“春の祭典”も、以前に意識せずに耳にしたことがあったかもしれないけれど、実質的には初めて聴く音楽。

で、ベルリンフィルの芸術監督に就任したラトルは公演を行うにあたり、この「春の祭典」にあわせて踊るダンサーたちを、いろんな年齢・人種・背景の青少年で構成しようという計画「ダンスプロジェクト」を開始した。
ボクよりももっとクラシック音楽に縁がない若者たちに、これをきっかけにして、クラシック音楽に親しんでもらい、踊ることによって自己を表現する楽しさを知ってもらおうという企画。その初練習から公演当日までの6週間を追ったドキュメンタリー。
相手が子供だから、得だとか損だとかという勘定はない。そこにあるのは、面白いか面白くないのか、それともどれだけ真面目になれるか、真剣になれるのか、ただそれだけ。計算や打算が無いだけに、指導する方もされる方もシビアな真剣勝負。

実に様々な子供が集められる。その中の何人かをピックアップし、カメラが追う。
中でもあるクラスが中心にレポートされる。ロゥティーンくらいかな? ちょうど落ち着かない年頃。それに、何かにつけ斜に構えてしまい、真面目にしたり、一生懸命することへの抵抗感が人一倍強い年頃。さらに、箸が転がっても笑ってしまう年頃でもある。

ボクが感心したのは、子供たちを指導する振付師ロイストン・マルドゥームの粘り強さと、信念の強さだ。
引率で来ている(?)教師が意見や非難をしても、全く動じない。自分のやり方、指導方法を信じて貫く。媚びない、詫びない、そして妥協しない。
普段は素人の子供の指導をしているわけではない。やる気と向学心に燃え、選ばれた才能を持ったダンサーを相手にして仕事をしている。今回のプロジェクトとはまるで逆。だけど、今回でも求めるものは同じ。これは凄いことだと思った。この振付師は、自分が何を求められているのか、そして自分が何を子供たちに与えられるのかを「知って」いる。
ざわついていたクラスがだんだんと静かになり、まとまってくる。でも、彼が求めるレベルには遠く及ばない。だが、少しずつ前進する。

観ているボクはドキドキしてしまう。期間はたったの6週間しかない。間に合うのだろうか、大丈夫なのか?
もちろん、そんな心配をよそに練習は続く。
もう少し年代が上がり、20代前半から18ほどの若者で構成されるクラス。このクラスの様子も時折写しだされる。
さすがに違う。目付きが違う。一概に歳の差だけではないだろう。このクラスで踊っている若者の目は、目的を持ちそれを見つめているそれ。準備運動をしている姿からしてまるで違う。
その対象が面白いが、こちらのクラスは頭で理解できるだけに、姿勢が違う。う〜ん。年齢の差とは、ここまでも大きいものなのか。

これが、もし、選ばれた、しかもしっかりとしたトレーニングを受けて来た子供たちだけで構成されているとしたら、最終的な公演の質はまるで違ったものになっていただろう。
でも、今回の主旨とはまるで外れてしまう。子供たちは、頭からクラシック音楽やオーケストラが奏でる音楽を屁とも思っていない。それが徐々に、頭ではなく身体で感じることが出来ていく。自分が求められている形が理解できていく。
結果として、公演の内容は稚拙なままに終わるかもしれない。でも、それはそれでいい。いかに多くの子供たちが身体で音楽そのものに触れるかが大切なのだ(と思う)。

まぁ、音楽とかクラシックとかのことはどうでもいい。そして、難しいことは何も考えなくていい。
本当のプロフェッショナルに触れることにより、子供たちがどう変わっていくのか、それをじっくりご覧いただきたい。その稀有なチャンスを掴む子、逃してしまう子。多様な価値観の中で揺れ動く子供たちの姿は、とてもナチュラルだ。
そして、プロはプロの仕事を惜しげもなく披露してくれる。心と心のぶつかり合い。これは観る者を唸らせる。

当然のことながら、とうの昔に上映は終わってしまいました。
でも、きっと、丹念に探せば再上映に巡りあえると思います。見応えのあるドキュメンタリーです。
もちろん「春の祭典」が収められたCDを買ってしまいました。

おしまい。