パッチギ!

一途な思いが駆け抜ける


  

予告編をちらっと見ただけで、もうクラクラして、切ない青春の想い出で胸がキュンとしてしまう。そんな映画。
この映画で語られる世界は、ボクの子供時代とうっすらとダブる。厳密に言えば、一つ世代が違うんだけどね。でも、舞台は関西だし、オックスが“失神バンド”として名を馳せていたのも知っていました! フォークルの「イムジン河」の発売中止も記憶に残っている。
そして何よりも、昨年の6月にイムジンガン(臨津江)をこの目で見ているのだ。

この映画の見方はいろいろあると思う。
まず、青春の恋物語りとして観る。これが一番オーソドックスな見方だろう。事実、この作品は、お寺のボンで東高校に通う康介の視点で語られ、一目惚れしたキョンジャに対する恋が成就するのかどうかを追っている。その恋の行方に様々なエピソードが絡められている。
そのエピソードは大きく分けて二つ。まず一つは、キョンジャが在日であること、そして二つ目が訪れた朝鮮学校で耳にした「イムジン河」のメロディ。
そこにお調子者の同級生や、酒屋の若旦那、高校の担任などが出てきて、対してやたら喧嘩ばかりしているキョンジャの兄アンソン、そして個性的な学校の仲間達。そんな魅力的なキャラクターが実に上手く脇を飾っている。
ある意味、京都版の「ロミオとジュリエット」であり「ウエストサイド物語」なのです。

もう一方では「もし、私達が結婚することになったら、あんた朝鮮人になれるの?」という鋭い質問も飛び出す。そして、この答は映画の中では明確に出されない。
キョンジャ一家も、ずっと京都にいたわけではなく、日本の各地を転々としてきたのが、さりげなく台詞に織り込まれている。アンソンは、祖国の代表チームに入るために帰還船に乗るという。はたまた、釜山から密航してきた青年には「ここ(日本)には、北も南もないんや」と声を掛ける。
チェドキの葬儀への出席を康介は罵倒され拒まれてしまう。

だけど、この映画を観る人にはわかっている。
康介は進んで、在日と交流したのではない、自分の恋を成就させるために自ら飛び込んでいった結果なのだと。だけど、何も知らず外から眺めているだけではなく、輪の中に入ってしまえば、理解しあえないわけではないのだ、そこにある壁は乗り越えられないほどの高さではない。最初の理由はどうあれ、一直線な康介の行動力には脱帽するしかない。

それに比べると、今の、ここ数年の様変わりには驚かされるばかり。

主人公のは康介を演じえる塩谷瞬はもうひとつ冴えない(その冴えなさが魅力かも?)。一方、ヒロインの沢尻エリカはいいねぇ。くりっとした瞳がかわいい。今後に大いに期待です! アンソンとその親友二人も個性的で期待できそうです。笹野高史、前田吟、光石研などが渋くていいです。
さまざまな時代背景が入り組んでいるのも確かだけど、そんな難しいこと(?)を抜きにして、是非ご覧いただいて、青春物語・恋愛物語として理屈抜きに楽しんでもらいたいです。 はっきり言ってボクの予想を超えてオススメです!

ボクが拝見したのは平日の夜。この日のブルクは30名ほどの入りだったのですが、真ん中らへんに男子高校生のグループが制服のまま陣取っていた。映画が始まるまでは、騒がしかったけれど、エンドロールが流れ終わると、彼らから大きな拍手! ちょっと驚いたけど、嬉しかったな。

おしまい。