火火・ひび

“愛”を教えてもらう


  

以前にも少しはお話しをしたことがあると思うけれど、僕は焼き物(陶器)が好きです。以前は時間をこさえては西日本各地の窯元を訪ね歩いたものです。最近は信楽以外にはすっかり足が遠のいているけれど...。
何かの映画を観たときにこの映画の予告編が流れていた。その時は「信楽が舞台の映画が出来たんやな」としか思っていなかったけれど、その後耳に届くウワサはなかなか良い。どうやらいい作品らしい。
パラパラと「ぴあ」をめくっていると、何とお膝元の滋賀県では先行上映されているではないか!「よっしゃ、京都と大津は実はお隣り。しかもJRの駅のそばにいるのであればスグに移動できる」早速、観て来ました。

信楽が舞台になっていて、主人公は陶芸家だけど、それはあまり関係ない。陶芸が好きとか興味があるなしとこの映画の良さは全く別物。陶芸とは関係なく、人間の持つパワーや素晴らしさが存分に発揮されている。そして何よりも女優田中裕子のエネルギーに圧倒されてしまう。凄い人だ。

主人公の「愛」を教えてもらった。
「愛」とか「愛する」なんて気軽に口に出しているかもしれないけれど、その「愛」とはどんな意味を持つのか、それを教えてくれる。愛するのは簡単ではない、簡単に口にしてはいけない。そして一度、口に出したからには、全身全霊を傾けて精進して貫き守らなければならない。

「自然釉」という言葉すら知らなかった。
神山清子(こうやまきよこ/田中裕子)は登り窯で信楽古来の「自然釉」を復活させようと取り組んでいる。しかし、志半場にして旦那は助手の女の子と逐電してしまい、幼い子供二人とともに取り残されてしまう。
ここからは極貧の生活。志は高くとも、志だけでは飯は喰えない。ここの描写はある意味リアルで息を飲むシーンが連続する。芸術ではなく、食べるための焼き物も作る。それでも子供達に人並みの生活を送らせることもままならない。
そして何年も過ぎたある日、ようやく「自然釉」に成功する。個展も開き、認められ、どうにか軌道に乗ってきた。借金を返済し、上の娘を短大に通わせることも出来、下の息子は研究所で基礎を勉強し始めた。

しかし、再び試練が清子を襲う。
息子の賢一が作業場で倒れた。白血病だった。
骨髄移植をしなければ余命は3年もないという。
清子の新たな闘いが始まった。

抗がん剤の投与や化学療法だけでは完治はしない。進行を遅らせることは出来ても、進行を止めたり、治したりは出来ない。骨髄移植も誰の骨髄でもいいのではない。血液型を複雑にしたような骨髄液の型が合致していないと移植は出来ない。すがるような気持ちで検査を受けるが、血縁者に型が合致するものはいなかった。街頭で呼びかけを行い、ドナーとして登録してくれる人を募る。
個人での活動では限界を感じると、地区の若者達が立ち上がり組織を立ち上げてくれた。運動は盛り上がり、町長を担ぎ出し、TVにも取り上げられた。きっとドナーは見つかる、と光が差してきたかのように思えたが、やがて壁にぶち当たる。骨髄が適応しているか否かを調べる検査だけで1,000万円以上の経費が必要になる。その金額は個人や募金・ボランティアで出来る枠を超えていた。もうどうしようもない。そして、残された時間は少なくなっていく。

普通の親なら、息子べったりになっていてもおかしくない。しかし清子は違う。違わないけれど違う。
彼女の姿に行動に、そして言葉に。突き放しているようで、賢一を励まし、自分を鼓舞する。
一言一言が、まるで胸に突き刺さるようだ。
看病もする、付き添いもする、でも仕事もする。ろくろを回し、土をひねり、窯に火を入れる。

結果はこの映画の冒頭で明らかにされている。そんなことはわかっている。
でも、何か出来るんじゃないか、何か起きるんじゃないか、そう期待してしまう。
そう期待させる迫力がこの映画にはある。

ラスト近くはもう頬をとめどなく涙が流れっぱなし。ここまで泣いてしまったのは久し振りのこと。涙腺が緩んでいない方でもハンカチのご用意はお忘れなきように!
出来ることと出来ないこと、かなうこととかなわないこと。愛さえあれば何でも出来るのではないけれど、愛があるから出来ることもあるんだな。改めて愛の意味を教えて貰ったような気がしました。
ちょっと誉めすぎかもしれないけれど、いいお話しなのでチャンスがあれば是非どうぞ。大阪を含む関西でももうすぐ上映が始まるようですね。
田中裕子だけではなく、岸辺一徳、池脇千鶴、黒沢あすか(「六月の蛇」の女優さんとは帰りの電車の中で気付いた!)、石田えりなどもいい味出しています。賢一の窪塚俊介は、その名前からして窪塚洋介の兄弟さんなのでしょうか?

公開二週目に入っているせいか、この日お邪魔した浜大津のアーカスシネマ、あんまり入っていない。もうちょっとお客さんがいると思ったんだけどな。
お客の入りよりも気になったのは、どうもお客さんのマナーが良くない。一応全席が指定席なんだけど、あつかましい方が多くて、自分の指定された席に座らない。これはあつかましいとかではなくて、劇場側でもう少し対応しないとアカン。上映ぎりぎりに入ってきた二人組、自分の席に他の人が座っているの腹を立てていた(それはごもっともです)。誰か来るかもしれないのに、その席に座る人も座る人たちやけどね。
もう一つは、最初はボクの隣に座っていたおっちゃん。いきなり席を移動したかと思うと、映画が始まって30分ほどは後ろで立って観ていた。そしていきなりずかずかと動いて、前の方で誰かの隣に座った。幾らでも席は空いているのに。絶対におかしい。こんなおっちゃんがいたら安心して映画館で映画を観ることなんて出来ない!
映画が良かっただけに残念な出来事でした。

おしまい。