美女缶

ここまで期待させる何かがあります!


  

公開されるずいぶん前から楽しみにして待っていることもあれば、ほんとうに偶然、ぴあやチラシそれに予告編などを見て映画館で出会う作品もある。
今回拝見してきた「美女缶」はまさに後者のケース。こんな映画があることも知らなければ、観に行く予定もなかった。でも、ぴあでみかけて「観てもいいかな」と思い、料金も1,000円だし、まぁ期待もせずに十三のナナゲイに足を運びました。
三連休の中日。十三には少し早く着いたので、商店街をぶらぶらと。思わずみかんを一箱買ってしまいました。

一日に一回だけの上映。
「美女缶」と短編を二本(「ロス:タイム:ライフ」「ハリコマレ!」)。そこそこお客さんが入っている。

観終わって「ドキン」とした。
こんな感覚を味わうのは久し振り。
強いて言えばクリストファー・ノーランの「メメント」以来か。

全く知らない監督に、全く知らない役者さん。見るからに安っぽい外観をした作品であることは間違いない。でも、中身は凄い。ストーリーと演出で、およそ1時間ぐいぐい引っ張っていくのは相当の技量が求められると思う。だから驚いた。日本にもこんな才能がまだ眠っていたのか!

とっつきやすいストーリーが展開される。でも、今思えば導入部分にも入念に伏線が張られているんだな。
主人公の大学生健太郎は周囲の反対を押し切って、劇場で赤穂浪士を題材にした一人芝居の公演を行う。お客さんは義士と同じ47人だと言うから、ちょっと可笑しいね。
そして、健太郎はそんなに“かわいくない”女の子マリと付き合っている。本人は、そろそろ別れてもいいかなと考えている。それに演劇もそろそろ足を洗う潮時かなとも思っている。生活を変えて、真剣に就職活動に取り組む時期がやって来ている。
でも結局、彼女の世話で新しいマンションに引っ越すことになる。彼女とはなかなか手を切れそうにないのか? そして、引越しの挨拶に隣の部屋を訪ねる...。
その部屋には、見るからに冴えないオヤジが住んでいた。その冴えないオヤジの部屋にブロンドの美人がいるから不思議だ。そう、この時健太郎は「あれ、ヘンだな」と思っただけだったのだけど...。

物語りの着想がいい。それにとってもわかりやすい筋運びが憎いし、作品の中に自己満足や妥協がほとんど感じられない(っちゅうか、あまりにも面白いストーリーに、そんなことどうでもよくなってしまう)。
もう一つ特筆すべきなのは、こんな題材を扱っているのに、全く下品ではないところに感心した。安易な方法で観る人に媚びない。思わず「上手い!」と唸ってしまう。

それにしても、この「美女缶」。なんとかしてボクも手に入れたい。そこにはどんな“美女缶ライフ”が待っているのでしょう? ちょっと想像もつかないけれどね。意外と迷惑なような気もするけど、そんなこともないか。ごっつい楽しみ!
ちょっとくすぐる仕掛け。そして、実はしっかりオチも用意されている。なんだか切ない気持ちになる。
「なんだ」なんて落胆することはありません。「そういうことだったのか」とは思うけれど、それはそれで、何故か妙に納得してしまうんだな。健太郎の“美女缶ライフ”は結局どんな末路を辿るのか、しっかり見届けてみたいような気もするし、このままそっとしておきたいような気もします。

残念ながら、ナナゲイでの上映はもう終わってしまいました。でも、DVDの発売があるようです。チャンスがあればスクリーンでご覧いただきたいですが、DVDででも是非ご覧になっていただきたいですね。
それとこの筧監督。次作に期待したい! 彼が“大化け”するのかどうか、次作だけではなく、今後長い目で見守りたい、そんな気持ちになりました。
ちびっと持ち上げすぎのような気もしますが、そんな“予感”を感じるのです。
自信を持ってオススメです!

おしまい。