イブラヒムおじさんとコーランの花たち

柔軟な心


  

この日の三本目。ごっつい寒い一日で、大阪駅からスカイビルまでの移動が寒くて寒くて仕方ない。ここは暑い日も大変だけど、こんな寒い日も嫌になります。ある意味、まだまだ“陸の孤島”ですね。

この映画の狙いは何だったのだろう?
少年が大人へ成長していく一瞬、一瞬を切り取ったような作りになっているけれど、そこにイスラム教(コーラン)がそう影響を与えたようには見えなかった。
少しうがった見方をすれば、これから大人の仲間入りしようとしている少年の心は柔軟で、違う考え方(人種・宗教・信条)を受け入れることにも躊躇しないということなのだろうか? 少年がユダヤ人でイブラヒムおじさんがイスラム教徒という組み合わせはなかなか意味深ですね。もしそうだとしたら、この映画はメッセージ色が色濃いということだけど、そんな押し付けがましいところはあんまりない(ような気がする)。

前半は、観ていてちょっとね、胸が苦しくなる。
主人公のモモ少年には、家の前にある通りに立つ娼婦に憧れとも興味とも云えない思いで胸が一杯だ。どきどきしながら貯金箱を壊し、お金を用意する。そして、大人への仲間入りを果たす。なんとも微笑ましい(?)エピソードのオンパレード。
やがて、この家族の姿が見えてくる。両親は離婚し、モモは読書家の父親と暮らし、母親と出来の良い兄は別の街で暮らしている。何かにつけこの兄と比較されるモモは劣等感のかたまりだ。
そして、モモが住むアパートの向かいにある雑貨屋「アラブ人の店」のイブラヒム老人との交流も微笑ましい。だけど、ここからこの話しがどう展開していくのかは全く想像もつかなかった。

結局、パリでのこの二人の交流はちょっと端折ってあると思う。モモがイブラヒムおじさんに傾注していく過程や、そこから一気に養子縁組をしてしまうのは飛躍が大きいような...。
それでも、父を失ったモモは突然やってきた実の母を頼らず、イブラヒムおじさんを選び、新車を購入してトルコにあるというおじさんの故郷へ出発する。

その道中の風景は綺麗だ。ゴミ箱のエピソードもなるほどと思ってしまう。それにヨーロッパは地続きの大陸なんだなぁとつくづく思ってしまう。どこへでもクルマで行けてしまうのだ。そして、西へ行くにしたがってイスラムの結びつきの強さも感じられる。
途中のイスタンブール。一度は行ってみたいと思いながらなかなか順番が回ってこない(ボクの夢はボスポラス海峡が見下ろせるテラスで昼寝をすることだ)。

ボクが気になったのは、モモは余りにも自分を安売りしていないかいうこと。結局、モモもイブラヒムおじさんと一緒になてしまうのでは?
勉強するしないは別にいいとして、目先のことだけを考えていないか? それにラストに出てくるモモは現在の自分に満足していたのだろうか? あの店に訪ねて行ってそっと尋ねてみたいような気もします。

お時間があれば一度ご覧になってもいいかもしれません。
「アラビアのロレンス」のオマー・シャリフがイブラヒムおじさんを枯れた姿で熱演しているのも話題ですよね。この「アラビアのロレンス」はDVDやビデオで見てもいいんだけれど、是非巨大なスクリーンで観ていただきたい映画です、と言ってもなかなかチャンスがないけどね。
新梅田シティの梅田ガーデンシネマでもう少し上映しているはずです。この日は初日だったので、半分ほどの入りでした。

おしまい。