モーターサイクル・ダイアリーズ

ガルシア・ベルナルに惚れる


  

なんだかんだと言訳をしつつ、映画館の暗闇から遠ざかっていた。
それが、この週末はおめでたい宴席にお呼びいただき、のこのこと出かけ、東京で一泊。翌日はフリーなので、久し振りに映画館へ。
何を観るのか随分迷った。東京国際映画祭が開催中だけど、こちらは残念ながら当日ほいほいとチケットが買えるわけではない。前の週の木曜にリニューアルされたばかりの「ぴあ」を買い、少し研究する。
上映中で観たい映画を幾つかピックアップして、時間割を調べる。これが、どうも上手くぴたっとはまらない。上手く行くときは、最終の伊丹行き(19:30発)に余裕で間に合って4本はハシゴ出来るもんだけど、この日は一本早い便(19:00発)の予約だし、どうもあかん。
それに前夜、レイトで観る予定だったけれど、地震の影響もありキャンセルしてしまった(おかげでタップリ眠れ、疲れも取れました)。

まず向かったのが川崎。ここの駅前にあるチネ・チッタというシネコン。都内では恵比寿でだけ上映している「モーターサイクル・ダイアリーズ」。恵比寿の映画館は特に印象に残っていないけれど、ハシゴすることを前提とした場合、駅から遠いのが難点(ボクにとって、これはかなり大きなマイナス点)。
「ぴあ」を良く見ると、川崎でも上映している。さらに調べると「川崎は遠い」と思っていたけれど、決してそんなことはない。仮に東京駅を基点とすれば、渋谷や新宿へ行くのとほとんど変わらないということがわかった。
そえでも、300名ほど入れるスクリーンに30名弱のお客さんとは、午前中とはいえ、少し淋しい気もする。

予告編は見ている。
アルゼンチンに住む裕福な環境に育った若者が、友人と二人で南米大陸を単車の二人載りで放浪するお話し。見たままロードムーヴィーだ。そして、この映画の主人公は後年キューバに渡り、カストロと共に革命を成し遂げた指導者・チェ・ゲバラその人だと言う。

“政治色はない”とは言わない。それでも随所に、その匂いはある。それを物足りないと思うのか、それともこの程度でもイヤだと感じるのか、それは個人の体温の差だと思う。
ボク自身は政治色については「こんなものかな」と受け止めた。ここで描かれているエルネストはまだ学生であり、どこにでもいるような恋に悩む若者の一人に過ぎないのだから。

ブエノス・アイレスに住む医学生のエルネスト(ガルシア・ベルナル)は、友人のアルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)が30歳になるのを前にして、二人でオンボロバイク“ポンテローザ号”にまたがって、南米大陸をほぼ一周する旅に出る。
無茶な旅に出るのは若さの特権。エルネストの家の前を出発する出だしから波乱の行く末を感じさせる。

それにしても、南米大陸の広さは凄い。
そして、ボクの眼前に繰り広げられる風景の圧倒的な迫力の前に、ただただ唸って観るしかない。全てのカットの一つ一つがかなりの密度を持っている。どこまでも遮るものが無く広がっていく空は、ボクが知っているその色とは明らかに違い、陽の光でさえ別物。
晴れた日も、雨の日も、そして雪が積もってもはや二輪では走行不能なアンデスの山中も、二人は乗ったり、押したり、なだめたりしながら“ポンテローザ号”を駆って走り抜ける。

そして、意外な(ある意味予想された?)ことに、二人は“ポンテローザ号”と別れを告げる。
単車を降りた二人は、ヒッチハイクか徒歩で旅を続ける。すると、今までどんどん後ろへ流れ去っていた景色が、違う色をしている。すれ違うだけだった人たちと言葉を交わすようになる。
砂漠で出会った夫婦、インカ帝国の古都で仲良くなった少年...。

決して言葉(セリフ)で表現されないけれど、単車を降りることで旅の目的が変わってしまったように見える。
目的地に赴くことが旅、だけどそこへ行くことだけが大切ではない。大切なのは、その過程で何を見て、なにを感じるかなんだなぁ。
ボクもこんな旅がしてみたい!

ちょっと駆け足で進んで行くのが残念だけど、数ヶ月にもわたるエルネストとアルベルトの旅を逐一記録できない。かいつまんで紹介するのが精一杯だったんだろうな。ちょっと惜しい。ただ、少し急ぎすぎたかな。
この映画は観る人によって、随分意味が違う、感じ方や受け止め方が違うだろう。景色だけを見ていても充分に楽しめる。無茶な若者の旅の部分だけを捉えても、充分楽しめる。そして、この旅を通じてエルネストが何を感じ、どう変わったのか、それを考えるという楽しみ方もある。
ただ、正解があるわけではない。いろんな楽しみ方が出来る作品だと思う。

ボクが印象に残るのは、チリへの国境。湖(川?)を船で渡るシーン。何とも言えない幻想的な場所だ。
それにしても、主演のガルシア・ベルナルはなかなかいい役者さんだ。彼が売れっ子なのも頷ける。

大阪・梅田ではガーデンで上映していると思います。チャンスがあれば是非どうぞ!
次回は、川崎からダッシュで移動した大森で観た韓国映画「菊花の香り」を紹介する予定です。

おしまい。