華氏911

情報信ずべし、また信ずべからず


  

以前はキリンビールの広島工場だった場所にソレイユという名前の大規模ショッピングセンターが出来ている。この施設のおかげでJRの新しい駅まで出来たのだから凄い。
このソレイユの中に入っているのが、東宝系のシネコン「バルト11」。名前どおり11もスクリーンがある。

そのバルト11の中でも最大のスクリーンを使って初日を迎えたのが、話題先行型の典型的な例とも言えるカンヌのパルムドール受賞作「華氏911」。
ありゃぁ。400人以上は入れるはずなのに、70〜80人ほどしか入っていないよ。売切れ必至と思っていたんだけどな。まぁ、そんなものかな。広島地区だけでも三つの映画館で上映してるし、初回の開始時刻は午前中だしね...。

観ていて楽しい映画ではない。
苦い。日本に住むボクでさえ苦いんだから、この人を大統領に選んだアメリカ国民にしてみれば、苦々しいことこの上ないだろう。
そう思ってしまうほど、ブッシュJr.はこけにされまくっている。

この映画のポイントは三つあると思う。
まず一つ目は、ドキュメンタリーは「事実をあえるがままに伝えている」のではないということ。ドキュメンタリー映画と言えども、作り手の恣意的な編集作業が加えられると、決してあるがままなどではない。
そして二つ目。「情報は選択されてボクらに届いている」ということ。ニュース番組で報道されている情報は、誰かが選択して流されている。テレビもラジオも新聞も。そのニュースを素直に信じ込んでしまうのは、とても危険だ。常に「おかしいな」とか「ほんまかな」という意識を持って受け取るべきだ。
最後に、三つ目。上の二つを逆説的に表現したのがこの作品。マイケル・ムーアは決してブッシュJr.嫌悪しているのではないだろう(と思いたい)。そんな個人的なことではなく、如何に情報が操作されているのか、それを証明したくてこの映画を撮ったのだろう(きっと違うと思うけど、ボクはそう受け取った)。
おまけにもう一つ。アメリカという国は、いろんな意味で確かに病んでいる。でも、こんな映画を作ってしまい、そして上映してしまう。だから、いまだに“自由な国”であることも確か。日本で現政権を正面から揶揄するような映画を撮ることが出来るのだろうか? 例え製作出来ても上映出来たかどうか? ちょっと疑問。

何かストーリーがあるわけでもなく、お芝居が演じられるわけでもないので、確かにこの映画はドキュメンタリーなんだろう。
そして繰り返しになるけど、はっきり言ってしまえば「面白くとも何ともない」。
娯楽作品ではなく、政治的なプロパガンダを色濃く含んだ映画だ。
ただ、受け手にしてみれば、この映画をジョークとして面白いと捉える人も少なくはないだろうけどね。

「大統領=選ばれた人=偉い人」ではない(のではないか?)。
まず、疑惑の大統領選についてもう一度疑問を投げかけている(その後の議会下院で対立候補だったゴアが、真摯な態度で議会運営を勤めている態度が収められているのが、ケッサク!)。そして、就任後の彼が大統領に似合った資質の持ち主であったかを検証。米国を襲った悲劇であった「911」のその時間に、彼がどこで何をしていたのかを教えてくれる。そして911の首謀者であるとみなされていた人や集団に対する大統領が取った対応について疑問を呈している。「生ぬるい」と。
そして、その後のイラク侵攻についても検証。結局、このイラク戦争の是非を問うのではなく、イラクの地で闘い、傷つき命を落としたのは誰だったのかを教えてくれた。

ボクはこの映画を観るまで、知らなかったり、知っていても忘れてしまっていることが多かったと気付いた。
そして、行き着くところは「富と名声」なのか、と思う。
自由の国アメリカにおいて、結局お金やコネがものを言う。そんなものかもしれない。

それらはともかく、こんな映画を作ろうと企画し、実行したマイケル・ムーアには大拍手を送りたい。
が、彼もそろそろお金と名前を手にしているだろう。次はどんな手を? これに期待ですね。

さて、もうすぐブッシュは二期目を賭けた選挙戦。
結果が楽しみだ。

(この項に関しては、後日、大幅な書換え含む訂正を行う可能性があります)

おしまい。