ドット・ジ・アイ

キサス、キサス、キサス


  

物語が語られるパターンは幾つかあると思う。
またくのフィクションもあれば、さもありそうなお話しもある、かと思えば実話ベースのものもあれば、“事実は小説より奇なり”といったものもある。
この「ドット・ジ・アイ」で語られるストーリーは、あくまでも「作られたお話し」であり、しかも妙に後に糸を引く。そして何故かいかにも英国のお話だなぁと思ってしまう。

カルメンは幸せの絶頂にいる。同棲しているリッチで優しい彼・バーナビーからプロポーズされたばかりか「一週間後の土曜日に式を挙げよう」と告げられる。
「偶然の出合いから、つきあい始めてまだ日が浅い自分が...」という思いが一瞬頭をよぎるが...。

フランスにはへんてこな風習がある。“ヘン・ナイト・パーティ”結婚を控えた女性が、女友達と男装してレストランへ繰り出す。食事を楽しんだ後に、そのレストランに居合わせた男性の一人と、独身最後の思い出としてキスをする。
カルメンは自分のヘンパーティで、運命的な出合いをしてしまう。

自分のキスの相手に選んだのはキット。
彼とのキスはほんの余興で、軽く唇を合わせるだけのつもりだった。二人のキスは口付けに変わり、熱い抱擁になる。フォークが木の床に落ちる音が響き、我に返るまでの一瞬。カルメンはキットと濃密な時を共有してしまう。

キットは二人の男の間で揺れ動く、繊細かつ大胆、そして罪と反省の間を行ったり来たり。まぁ言ってしまえば本能と理性の狭間なのか。
端から見ていると、あんまり繊細そうでもないし、単なる尻軽女にしか見えなくもないけどね。
でも、何故かカルメンを取り巻く二人の男がどうも煮え切らない。

迎えた結婚式の当日。
ありゃ、バーナビーはリムジンにお抱えの運転手。彼は本物のリッチマンなんだ。彼は教会の入口でカルメンを待つ。
そしてキットは、本心からなのか、それとも悪友にそそのかされたからなのか。「卒業」のダスティ・ホフマンばりに教会に駆けつけるのだが...。

理想と情熱、計算と勢い。カルメンの心の中で、激しくそして目まぐるしく交錯する思い。
そして、この物語りは一気に収束していく!

決して全てがハッピーエンドではない。それに、悪いお話しでもない。
ただ、余りにも...。

「天国の口、終りの楽園。」「アモーレス・ペロス」「アマロ神父の罪」などに出ているガエル・ガルシア・ベルナルがキットを好演。残念なことに(?)、もう少年の面影は消え、今やすっかり大人になってしまった。
カルメンはナタリア・ヴェルベケ。この人「パズル」に出ていたそうだけど、そんなことちっとも思い出せなかった。でも、素敵な方ですね、特に男装のパーティのシーンが良かった。ただ、ちょっと繊細さに欠けていたような気もします。

まだ上映されているのでしょうか?
筆が遅くてなかなか紹介できないままに日が過ぎていってしまいました。
好き嫌いははっきり別れるでしょうけれど、なかなか面白いお話しでした。
お盆でもあり、テアトルはきっちりの満席でした。

おしまい。