子猫をお願い

あんなに仲が良かったのに


  

シネフェスタはそんなにお客さんがたくさん入る映画館ではないけれど、シートもいいし、のんびり映画を楽しむことが出来る、地下鉄からも環状線からも近い、そして何よりもアジアの映画を良く上映してくれる。ほんとに貴重なスクリーン。これからもよろしくお願いします。
大阪で個性的な映画館と言えば、九条のシネヌーヴォ、十三の第七藝術劇場、そしてここシネフェスタっちゅうことになるでしょうか。いずれもそこのスクリーンでしか上映されない映画が少なくないのが特徴(特長?)でしょうね。 少し前まで、扇町のミュージアムスクエアもかなり個性的だったけれど、もうすでに鬼籍に入ってしまった(本当に残念!)。まだ現役のスクリーンでは、天六のホクテンザ、ユウラクザもかなり個性的。ここはもう趣味でしているとしか思えない小屋ですね。
シネフェスタが凄いと思うのは、ここに来るお客さんは“映画を観に来ている”というところ。遊びに来てるとか、何かないかなぁとか、時間つぶしに映画でもとか、そんな人はほとんどいない(と思う)。皆さん、ぴあやwebでしっかり時間割を調べて、映画を観にここへ来ている。これって凄い。だから、映画を観る態度というか雰囲気が真面目な方が多いですよ。
まぁ、逆を言えば、何かのついでに来るところやないっちゅうことか、動物園前は。

さて、今回拝見してきたのは、関西ではここ動物園前のシネフェスタだけで上映されている韓国の映画「子猫をお願い」。

ペドゥナ(この人カタカナ表記が難しい)は、ボクの知っている限り(そんな何本も観たわけとちゃうけど)、お嬢さんの役は演じないね。いつも等身大。彼女が出演している映画を観に来ているであろう、彼女と同年代の女の子の平均像を鮮やかに演じている。
だから、お金持ちのお嬢さんとか、凄く勉強が出来るとか、とてもかわいいとか、そんな役は演じない(回ってこないのかな?)。ボクはそんな彼女をとても評価している(つもり)。韓国ではどんな評価を受けている女優さんなんだろう?
今回もペドゥナはそんな女性を演じている。仁川の商業高校を卒業して、就職もせずに、親が営んでいるサウナ屋を手伝うともなく手伝っている(ブラブラしている?)。
高校時代の友達を大切にしているし、ボランティアのタイプライターを使っての口述速記(?)にも熱心に取り組んでいる。少しは恵まれているかもしれないけれど、ソウルの大学へ行きブランド物で身を固め、カンナムで遊ぶ女子大生とはかなり違う。

そんなテヒ(ペドゥナ)が、高校時代に仲が良かった五人組。高校を出てからそれぞれ道を歩み始め、もうバラバラ。たまに皆で集まっても話しが合わない、それぞれの価値観が違ってしまっている。
これは、よくあること。観ているお客さんの誰もが、胸に手を当ててみれば思い当たることが必ず一つや二つはあるようなエピソードが、巧みで真面目な手法で語られていく。
テヒに求心力が無いわけではない。そうじゃなくて、これが時の流れなんだ。

「あんなに仲が良かったのに、あんなに楽しかったのに...。」

子猫はあくまでも象徴。
そして、テヒも、失業中のジヨンも、ソウルの証券会社に勤めるヘジュも、露天で自分で作ったアクセサリーを売る双子のオンジョとピュリも...。
誰かに自分の姿を重ね合わせながら、この映画を観てしまう。

観ていてちょっと哀しくなる、感傷的になる。時の流れとは、残酷だ。
いつまでも同じ時代に留まっていたい。だけど、生きていくためには、今を生きなければ。ご飯も食べなければいけないし、お金も稼がなければならない。そして、友達も自分も多かれ少なかれ変わっていってしまうものなのだ。そして、脱皮を重ねて、好むと好まざるにも係わらず、大人になっていくのだなぁ。

この話しに、男と女のお話しは出てこない(一人だけアッシー君(もう死語?)が出てくるけどね)。それがある意味、救いなのかもしれないナ。
愛だとか、恋だとか、そんなものが出てこなくても、青春時代は美しく、はかなく、そして切ない。

観終わってすぐ、正直なところ、なんか口の中に砂利を放り込まれたような、苦い気分だった。そうだったのに、こうして思い返してみると、なかなか奥が深く、滋味深いお話しだったような気がしてきた。
確かに、楽しくないし苦いお話し。でも、とっくの昔に青春時代を終えてしまったボクを何故かすごく懐かしい気分にしてくれたのも事実。

この映画は、若い人には若い人なりに楽しめるポイントがあり、おっちゃんにはおっちゃんなりに楽しめる作品に仕上がっているのではないでしょうか。

蛇足ながら、この作品をもっと楽しむには、ハングルが読めた方が良いでしょうね(ボクは読めないけど)。
文字の使い方が秀逸だと思います。

もう少し、シネフェスタで上映しているはずです。是非、劇場の大きなスクリーンでご覧ください。楽しくはないけれど、観て損の無い作品だと思います。

おしまい。