孝子洞の理髪師/The President's Barber/
(邦題:大統領の理髪師)

庶民の目で見た時代のスケッチだね


  

ソンガンホの新作。
でも、ソウル市内での上映は終わっていて、ネットで調べたところソウルの近郊にある富川(プチョン)で上映されていることがわかった。というわけで、ソウルに着いた日に富川まで足を伸ばしました。
富川はソウルのベッドタウンで、ソウル中心部からKRとそのまま乗り入れている地下鉄1号線でおよそ35分。意外と近いという印象。降りた駅は松内(ソンネ)。駅前にあるファッションビル(Toona)の上が、“cineall”というネコンになっています。

上映時間まで中途半端な時間になったので、先に夕食を済ますことにした。
このビルの周辺(すなわち駅かからちょっと入った場所)は繁華街になっていて、飲食店が建ち並んでいる。並びによって似たようなお店が並んでいて、ある一角には海鮮、別のところには焼肉、そして鶏料理お店がかたまって並んでいる。
そんな中、一軒だけ異様に混んでいて、お客さんが待っている店がある。しかも若い女性のお客さんがほとんど。他の店はガラガラなのになぁ。そんなに大きくない店内を窓越しに覗いてみると、どうやら唐揚のお店。どのテーブルにも同じものが載って、皆が美味しそうにパクついている。壁に貼ってあるメニューの品目も5種類ほどしかなく、どうやらこの唐揚はタッパル(“鶏の脚”という意味です)という料理みたい。おばさんが出てきて「5分もすれば座れるよ」と言ってくれたので、待つことにする。
ほんとにすぐ席が空き、店内に入り座れた。「タッパルとビールをお願いします」と伝えると「辛いけど大丈夫か?」と聞いてくるので、胸を張って「大丈夫です」と返事したけど...。

“韓国で出会う料理の辛さは極めた”なんて勝手に思い込んでいたけれど、まだまだ甘かった。
タッパルは、その名前通り鶏の足の先だけを甘辛く煮たような料理で、唐揚とはちょっと違う。しかも、それがものごっつい辛い。もう中途半端な辛さではない、尋常ではない! 口の中だけではなくて、唇までもが辛くてひりひりするし、なんだか腫れ上がっている感じ。顔中から汗は噴出すし、涙もぼろぼろこぼれる(いや、身体中から汗が流れる!)。お皿には20個ほど脚の先が載っている。4つまでは頑張った。でもそれ以上は無理。これこそ“GIVE UP”。
このお店では、タッパルは上品に食べる料理ではない(まぁ、きっとどの店でもそうだろうけど)。料理のお皿と一緒に、薄い透明のビニールで出来た手袋を渡してくれます。これを両手に嵌めてタッパルを“しゃぶる”って感じ。鶏の脚はもともとほとんど肉は付いていないので、鶏を食べると言うよりも、甘辛い衣を食べているようなもんです。
「大丈夫」と言った手前、頑張ろうとしたけどアカンかった。たくさん残った脚を隣のテーブルに座っていた若者たちに進呈して、逃げるようにお店を出ました。
後日、韓国人の知り合いに聞いたといころによると「辛さを売り物にしているお店」だと言うことです。「辛さはクセになるからね」だって。唇はその後、30分以上腫れてました。
今は喉もとを過ぎたので、あの強烈な辛さも忘れてしまったけれど、とにかく気分が悪くなるほど辛かった。でも、他のお客さんは美味しそうに食べていたけどなぁ...。いい経験になったけれど、もう二度と食べたくない!

スイマセン。
すっかり前置きが長くなってしまいました。ここからようやく「孝子洞の理髪師」のお話しです。

ソウルではもう上映が終了しているだけあって、100名ほど入れるスクリーンに、なんと7人だけ。途中までは“貸切”かと思ったけどなぁ。こりゃ寂しい。
主演はもちろんソンガンホ。ソンガンホの奥さん役にムンソリ。そして二人の子供に、名前は知らないけれど「先生、キムポンドゥ」で、貧しい家庭に育ってけなげにアルバイトをする男の子が出ています。この子、なかなか達者です(要、注目!)。

思ったのは、この映画はソンガンホの主演が決まっていて、そして大統領専属の散髪屋さんという設定も決まっていた、だけどその後に細かいストーリーが作られていったのではないか、と言うこと。
すなわち、凄く魅力的な設定だけど、お話しそのものは“もうひとつ”という印象を受けた。
結局、そんなに面白くない(残念だなぁ)。途中で、このお話しはどんな落しどころが用意されているんだろう、と観ているこちらが心配してしまったほど。
それほど、このお話しにはストーリーが無い。
もちろん、ソンガンホもムンソリもいい演技は観せてくれる。でも、一向にお話しは膨らんでこない(ように思えた)。
恐らく、60年代から80年代の途中までの激動の韓国史を生きてきた人たちには、とても共感出来るのかもしれない。でも、それにしてもな...。
子供が警察に連行されてしまってからは、ますますリズムが狂って、ボクはのれなかったな。

ソンハンモ(ソンガンホ)は青瓦台(大統領官邸(執務室)の別名、アメリカなら“ホワイトハウス”ですね)の近くにある孝子洞で散髪屋を営んでいた。全羅道から上京していた娘さん(ムンソリ)を手伝いに雇ったら、その姿にムラムラして、そのまま孕ませてしまう(このエピソードの処理は秀逸!)。
ある日、ハンモの散髪屋に官邸の警護室長(ソンビョンホ、「オアシス」ムンソリのお兄さん役)が訪ねて来て「大統領の髪を切らないか」と持ちかけてくる。
そして、ソンハンモは官邸の理髪室室長として、腕を振るうことになる。ただ、普段の生活は孝子洞での散髪屋のオヤジのまま。この日から、ハンモの不思議な生活が始まる。
今までも、散々いろんな出来事に折に触れ、振り回されていた生活が、一層振り回されることになる。すなわち、大統領閣下の傍で仕えていても、所詮小市民。ことあるごとに振り合わされるハンモとその家族の姿が“見どころ”なんだろうなぁ...。

そして、青瓦台への北からの襲撃、その後の大統領銃撃事件...。
さまざまな出来事の中で、ソンハンモはどう生きるのか。決して媚びない、地位を利用しない、そのままの小市民であるガンちゃんには、確かに親近感を覚える。

確かに、60〜70年代の近代史を小市民の立場で生活してきた方々には忘れられない出来事ばかりなんだろう。
これまで、あまりこの時代が映画の舞台として描かれてこなかったのも事実。そういう意味ではエポックメーキングな作品なのかもしれませんね。
ガンちゃんの主演作だけに、日本で上映される可能性はかなり高いと思います。まぁ、ご自身の眼でお確かめください。

次回は、知らない間に新村に新しく出来たシネコン“arteon”で拝見してきた、チョンジヒョンの新作「僕の彼女を紹介します」をレポートする予定です。

おしまい。