21グラム

ある意味、最後のピースが嵌る快感


  

ピカデリーに来るのは久し振り。梅田にある映画館で一番行かないのはここかもしれない。ブルクが出来て、松竹系でも話題作はそっちで上映されるようになったしね。泉の広場までのホワイティの道のりが、物理的にも心理的にも遠いわけではないけれど、何故かなかなか足が向かない。
いつの間にかピカデリーも全席指定席になっている。そんなに混んでいないと思っていたけれど、どうしてどうして、そこそこ入っている。1/3から1/4は入っていたから、100人ほどかな。そんなに派手に宣伝を打っていたという印象はないから、正直驚いた。

一言で表現すると、一つのドラマを細かく切り裂いて、それをてんでバラバラにつなぎ直したような映画。
恐ろしく集中力を要求される映画で、ちょっと気を許してしまうと、もう何が何だかわからなくなってしまう(かもしれない)。様々なシーンが散りばめられ、場所も時間軸もてんでバラバラに配置されている。それが、ラストになってピタリとジグソーパズルの最後の一枚が収まって全体が完成するように、一つのドラマが完結する。
その手腕、計算された編集。これを観て唸ってしまうのはボクだけではないだろう。

ある交通事故をきっかけに、それまで全く関係がなく生活していた三人の男女の人生が交錯して行く。
でも、そんなことがおぼろげながらでも理解できるのは、映画が始ってからずいぶん経ってから。
それまでは、何がなにかわからない。ショーン・ペンはストーカー親爺の自殺としか見えないし、ナオミ・ワッツは仲のいい姉妹、ベニチオ・デル・トロはキリスト教の新興分派の手先かと思った。ここからどんなドラマが展開されるのかなんて、予測もつかない。

こうして、じりじりした思いを胸にして、どんどんこの映画の世界に引き込まれてしまう。

この映画は、映画の見せ方も凄いけれど、この映画が扱っているテーマも凄い。
幸せな家族が、突然の悲劇に遭遇する。家のすぐ近くで起こった交通事故で、父親と幼い娘二人が命を落とす。一瞬の出来事だ。クルマを運転した男は逃げてしまう。建築家の父親はドナーカードを持っていた。彼の心臓は移植を待っていた大学教授に移植される。クルマを運転していた男は幼い頃から犯罪を繰り返し、塀の向こうとこっちを行き来しているような男。この日が誕生日だった。この男の妻は、男に自首すべきではないと諭す。

移植を受けた患者と提供したドナーの接触は禁じられている。結果として、金銭の授受が行われれば、それは臓器販売になってしまうからだろう。それはわかる。でも、ドナーの家族にしてみれば、愛する親族の身体の一部がどこかで生きているならば、その人に会ってみたいと思っても不思議ではないだろう。
が、今回はちょっと違う。ショーン・ペンはちょっと変わった男だ。自分で探偵を雇い、誰がドナーだったのかを探り、さらにはドナーが脳死に至った原因までをも調べさせる。ひょっとしたら、彼は心臓移植をしてまで、自分の延命を望んでいなかったのではないか(そこまではわからないけれど)。

思い出すのは貫井徳郎の「プリズム」という小説。
それは、心臓移植を受けた主人公が、ドナーの心の一部を持ってしまうというお話しだった。事故の後、三ヶ月も他人と口を利かなかったクリスティナ(ナオミ・ワッツ)が何故かポール(ショーン・ペン)とは打ち解ける。外見ではわからなくても、彼女の心にだけわかる何かを彼が醸し出していたのか?
事故後、何事もなかったように生活しているジャック(ベニチオ・デル・トロ)に天誅を加える(もちろんジャックにしてみても、何もなかったわけではないのだが)。
その飛躍した発想が、何故か納得できてしまう。冷静に考えれば、これは“狂気”なんだけど...。

人は死んで、身体から魂が抜け出ると21グラムだけ軽くなるそうです。
そうだったたのか、21グラムとはそんな意味だったのか。
死んでもいいと思っているポールとあくまでも彼の子供にこだわる彼の妻メアリー(シャルロット・ゲンズブール)。死に打ちのめされているクリスティナ。何をやっても上手く行かない、すがりついた神からもひどい試練を与えられ投げやりになっているジャック。そして、最後にわかるクリスティナの妊娠(新しい生の予感)。

もう少し、続きを観させてよ...。

「メメント」や「フォロウィング」を思い出す。
そして、少し前に観た「アモーレス・ロペス」も何だか似たような映画だったと思う。帰ってから調べたら「アモーレス・ロペス」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の作品だった。なるほどなぁ。
物語りのスケールは随分大きく重厚になっている。ただその分、スピード感には欠けるかな。
観ていて、ひどく疲れるのは間違いないけれど、映画らしい映画を観たような気になるのも確か。次回は、もう少し軽めのテーマで撮ってくれたら嬉しいな。
そう言えば「メメント」のクリストファー・ノーラン。最近どうしてるのかなぁ、期待しているんだけど...。

もうしばらくは上映しているはずです。ピカデリーだけではなく、郊外型のシネコンでも上映されているようなので、お時間があれば是非どうぞ。まずまずのオススメ。
ただし、綺麗な作品ではないし、観終って、お腹一杯になるのは間違いありません。
次回は、もっとこんがらがった怪作「めざめ」をご紹介する予定です。お楽しみに!

おしまい。