赤目四十八瀧心中未遂

『あま』へのオマージュ


  

ちょっと古い話しで恐縮ですが、この日は神戸祭りだった。近くに住んでいるのに、この神戸祭りもルミナリエも行ったことがない。
今回も「神戸祭りやったら、電車が混んでイヤやなぁ」とポツリと思っただけ。
メインイベントのパレードは雨にたたられて、出番を楽しみにされていた方にはちょっと可哀相な神戸祭りになってしまったようだ。
元町から三宮周辺がメイン会場なのか、ハーバーランド付近は普段の神戸と何にも変わらなかったし、まぁ当然といえば当然だけど、シネカノン神戸もいつもと同じ(すなわちガラガラだった)。
そうそう、ここシネカノン神戸は「水割り」と称して、水曜日は誰でも1,000円というサービスをもうすぐ始めるそうです。今までここはカード割引とかなかったので、いいことですね(と、言ってもなかなか水曜に神戸には行けないけどね)。

さて「ヴァイブレータ」で、見事にボクをノックアウトした寺島しのぶの主演作。昨年の映画賞をほぼ総なめにした作品ですね。
大阪では十三の七藝で上映していたのに観逃していた(その前には、上六の近鉄劇場でも長いことやっていた)。
このお話し、原作の存在も知らなかったし、ストーリーもまるで知らなかった。ただ「凄い映画」という言葉だけがボクの頭の中を独り歩きしていた。

いきなり、阪神の「尼・あま」で幕が開く。

それ以降、出てくるのは尼の三和市場や出屋敷の商店街。びっくりしたなぁ。
ある意味、ボクの青春の一角を占める思い出の場所(学生時代、この商店街にある蒲鉾屋で下働きのアルバイトをしていた)。しかも、つい最近までは月に一度は歩いていた。
その割りには、尼崎で全く注目されていなかったな、この映画は。新聞の阪神版に載るわけでもなかったし、駅前に看板やポスターが貼ってあるわけでもなかった。映画のタイトルから尼崎が舞台の作品だとはわからないし、もったいないなぁ(てっきり、近鉄の沿線案内のような映画なのかと思ってた)。

映画の冒頭で語られるナレーションも実にそのまま。
尼崎に住む者、あるいは何らかの関係を持つ者は「尼崎(あまがさき)」とは言わず、愛着(侮蔑も含めて?)を込めてこの地を「尼(あま)」と言うのだ。
アンダーグラウンドとはまたちょっと違う、でも確かに日常と少し離れた場所。そんな雰囲気が醸し出される不思議な空間なのだ。映画そのものも、何とも怪しい雰囲気が濃厚に漂う。
ここでストーリーを語るのは、野暮以外の何ものでもない。

出てくる登場人物たちは、一人ひとりが一筋縄では行かない連中ばかり。
そんな中に、ひとりわけもわからずにポツンと投げ込まれる(否、自ら飛び込んで行った)「生島はん」。ことあるごとに「あんたは尼では生きていけへん」とか「尼には似合わないお人や」などと言われる。
これらのセリフを口にした者は、何も生島を侮辱しているのでも、揶揄しているわけでもなく、もちろん嫌っているわけでもない。それは、ただの挨拶代わり。それが、生島やこの映画を観た関西圏以外の人にもわかったのかどうか...。
当然、生島はこれらの言葉を真に受け、重く考えてしまい、彼の心の中に澱のように沈殿していく。

大楠道代、内田裕也の存在感は言葉にも表せない。

これが恋と呼べるのであれば、その恋の旅路の行く末は、三重県か。
赤目に行くまで、天王寺で繰り広げられる恋の醸成にこそ、この映画の真骨頂があるのかもしれない。

寺島しのぶはもちろん、大西滝次郎もなかなかいいです。
あかんのは赤井英和。ちょっと目を覆ってしまう...。

もうシネカノン神戸での上映は終了してしまいましたが、是非ご覧いただきたい。オススメです。
そんなに心配しなくても、いろんなところでまだまだ上映されると思います。

おしまい。