「みなさん、さようなら」

最期をどう過ごすのか 笑って迎えたい


  

かの「たそがれ清兵衛」をおさえて(最初から勝負になっていなかった?)、アカデミー賞外国映画賞に輝いた作品。

まず、これが説明が極端に少ない映画。現在の状況しかり、過去のいきさつしかり。でも、混乱することなく、なんとなくわかっていくのだから、映像は凄いというか、上手く撮られているんですね、この映画は。
そして、カナダは英語の国ではなく、州によってはフランス語が公用語になっているんだ(知らなかったわけじゃないけど)。
もひとつオマケに、劣悪な病院の環境には驚いた。ここモントリオールは発展途上国だったの?

廊下にも入院患者のベッドがあふれかえり、その廊下で電気工事が始められる。スキャンの検査も機器の故障で数カ月から半年から待ち。
そんな病院に末期癌の男レミが入院する。妻は彼に付き添うが、もう長くないと知らされているので、成人した息子と娘を呼び寄せる。
息子セバスチャンはロンドンのシティで働く敏腕ディーラー。彼と父親との仲はもうずいぶん前から上手くいっていない。娘はヨットに乗り、太平洋上。
息子はいそがしい仕事に後ろ髪を引かれながら、婚約者と共にカナダへ向かう。

「死」という重苦しい現実を直視しながら、その「死」をいかに心地よく迎えるのか。そんなことがテーマになって物語りは進んでいく。
物質的に心地よく。そして、精神的に心地よく。その両立は難しいように見えていながら、なんとかなるものなのか。もちろんある程度の財力があってのことだけど。
「友人に囲まれていたい」そんなささやかな望みさえ、実は叶えるのはそんなに容易ではない。かつての友人も離ればなれになって、今では自分の生活を築いている(当たり前だけど)。
だけど、こんな死を目の当たりにするときに、病室に駆けつけてくれる悪友がいることは、我が身を振り返ってなんとも羨ましい。

この映画が、そう重くなく、どちらかと言うとカラっと仕上がっているのは、レミ本人ではなく、息子のセバスチャンに視点が置かれているからだろう。 セバスチャンはクールで計算が出来る男だ。あれこれぐずぐずとは考えない。今自分が父親にしてやれることは何かを見抜ける男。そのために必要な手を次々打っていく。その姿には驚かされる。無理強いもしない、米国の病院への転院を進めるが、それがイヤだとわかれば、今の病院に豪華な病室を作ってしまう。

楽天的で、ちょっと(かなり?)女たらしのレミ。
やがて息子からの愛情に気づく。そして、病室に集まってくれる旧友たち。彼らの愛情に応えるために、最後の日々を病室で、湖畔の別荘で、湖の畔で、楽しく過ごす。

セバスチャン自身も、新しい人生をちょっと垣間見たような...。

ほっと溜息をつきたくなるような掌品。

この日のガーデンシネマは満席。ちょっとびっくりしました。
お時間があればどうぞ。

おしまい。