「殺人の追憶」

心の中に生き続けている事件


  

家の近所にポニーが住んでいる、いや、ポニーを飼っている家がある。
一年ほど前だったか、そんなポニーがいるという話しを聞かされたときは、にわかに信じられなかったけれど、実際に目の当たりにして、びっくりしたというか、何と言うか...。このポニーはアズキちゃんという名前で。ちゃんと住んでいる。もうすぐ三歳になる、ミニチュアポニー。80センチほどの大きさで、鹿毛と白のツートン。彼女はなかなかかわいくて、週末には夕食の後に散歩がてら、ニンジンや砂糖を持ってお邪魔することが多い。
皆さんも門戸厄神にお越しになことがあれば、ぜひかわいいアズキちゃんにお会いください。駅を降りてから、そのへんを歩いている人に「アズキちゃんはどこにいますか?」って聞いたら、きっと教えてくれます。小さな街の「有名馬」です。

さて、今回ご紹介するのは「殺人の追憶」。
もちろん、韓国の映画。
主演は、ご存知ソンガンホと、キムサンギョンそしてパクヘイル。その他にも何人かは知った顔が出ています。まぁ、この映画は誰が出ているとかはあまり問題ではなく、とにかくソンガンホの映画だ。
「シルミド/実尾島」と「TAEGUKGI/大極旗を翻して」に破られるまで、韓国映画史上最高の観客動員数を誇っていた(その前のタイトルホルダーは「チング」)。
「シュリ」で初めてソンガンホを見かけたときには、なんとも韓国人らしい顔立ちだと思ったものだけど、彼は見るたびにどんどん変わっていく。今では角が取れ、すっかり客が呼べる俳優になった。

決して、後味の良いお話しではない。
ただ、この映画のメインの素材である「華城事件」が韓国の人々に残したインパクト、こんなに話題になった事件なのに犯人が逮捕されていないという特異性、そして今や韓国ナンバー1俳優のソンガンホの主演、それらが重なって話題が話題を呼び、大量動員につながったのだろうか? 日本に置き換えれば「三億円事件」(ちょっと古いか?)の実録ものをキムタク主演で映画にしたようなものかな(?)。

ただ、ボクたちは「華城事件」のアウトラインを知らない上に、この事件が迷宮入りしている事実も知らなかった。従って、この映画を観る視点が、韓国の観客とはまるで違うことを認識しなくてはいけない。
「そうか、あの事件の陰には、こんな刑事たちの活躍や悩みがあったんだ」という感慨はまるでなく、ラスト近くまで「一体誰が犯人なのか?」という、解けない謎を頭の中で考えながら観なければならない。お陰でパクヘイルが犯人に違いないと思い込んでしまう。
韓国の人たちと違う視点だからと言って、この映画の面白さが減るわけではない。それどころか、そんなことは関係なく、この映画は凄いし、面白いのだ。それがこの映画のひとつの値打ち。

ボクは一足先にソウルで一度拝見している。今回は日本語字幕付き。ボクの語学力が飛躍的に上達しているわけはないのに、この「殺人の追憶」については、字幕の有り無しでそんなに印象は変わらなかった。
それは、この映画が俳優たちの表情を(顔を?)とても良く捉えているからではないだろうか。そう思ってしまうほど、この映画は顔の正面をよく捉えている(そう思いませんか?)。

今回、ボクは映画の中で展開されるストーリーは承知している。その結果、この映画が伝えたいのは、やっぱり“悔しさ”なんだと思った。映画の中で真犯人に結びつくような示唆は出てこない。自らの手で追い詰めた容疑者は、自ら信じた方法(DNA鑑定)で無実が証明されてしまう。
ソンガンホもキムサンギョンも、足を切断してしまう刑事も、ただ一言「やりきれない」。
どんな理由かわからないけれど、警察の職を辞したソンガンホの後日談。彼の中には、まだこの事件が生きている。いや、彼だけではなく、韓国の人たちの心の中にも「華城事件」はしっかり刻まれている。

残念ながら、大ヒットとは行かないまま上映は終了してしまいました。
でも、ボクが観た平日のブルク7は予想以上にお客さんが入っており、ちょっとびっくりしました。
まだ「殺人の追憶」をご覧になっていない方は、是非ご覧ください。出来れば大きい画面でガンちゃんと逢ってほしいですね。きっと特集上映などでご覧になれるチャンスも少なくないと思います。

次回は、久々にお邪魔した試写会で拝見した「コールド・マウンテン」を紹介する予定です。

おしまい